荒野の狼

力道山の荒野の狼のレビュー・感想・評価

力道山(2004年製作の映画)
3.0
2004年の日韓共同制作の作品。力道山が朝鮮半島出身者として差別を受けたり、成功してからは粗暴な日常生活を中心に描かれており、暗い側面に焦点が当てられている。力道山が1963年に39歳で死亡するまで描かれており、主演のソル・ギョング は本作の出演のために20キロ増量しておりプロレスラーとして説得力のある身体とファイトシーンをこなしている。実際の力道山には複数の女性関係があったが、相手役の中谷美紀は、そのうちの一人であるためか、人物像は十分に描かれておらず、共感は今一つ。鈴木砂羽
は、岸惠子がモデルの女優として出演しているが、岸と力道山は映画「力道山 男の魂」で共演している。藤竜也は力道山を支えた人物である新田新作がモデルだが、新田は1956年に死亡している(力道山の死より7年前)。
本作の魅力は、映画製作時の現役プロレスラーが出演していること。木村政彦は船木誠勝が演じているが、喜村は力道山より小柄であったので、船木は主役のソル・ギョング より軽量である点は史実にあっている。元柔道家出身のプロレスラーを木村役にするチョイスはあっただろうが、船木自身は柔術のヒクソン・グレーシーと対戦しており、グレーシー柔術の発展に寄与した木村役は適役といえる。横綱東富士がモデルの東浪は橋本真也で、橋本は2005年に逝去しているので本作が遺作になってしまった。橋本は映画「マッスルヒート(2002年)」でも、本物の格闘家が持つ凄みのあるアクションを見せたが、本作のプロレスシーンでは、橋本が実際の試合では見せたことのない、仕切りの姿勢からのぶちかましを見せるなど重量感のあるファイトは適役。また、笑顔が多い本作の橋本は、生前は厳しく辛い顔を見せることの多かった橋本であるだけに、ファンには嬉しい。ハロルド坂田は武藤敬司が演じているが、海外試合経験の豊富な武藤は、米国が本拠地である坂田役にふさわしい。シャープ兄弟を演じたマイク・バートンと:ジム・スティール、他の試合シーンに登場のリック・スタイナーも実際のプロレスと変わりのないファイト。遠藤幸吉は秋山準が演じており、スパーリングのシーンで登場。ファイトシーンは、よくできているが、当時はなかったラリアットや、アキレス腱固め、トップロープを越えてのトぺ(ソル・ギョング が披露)が使われるのは、ファンサービスとして許容される。
本作では、力道山が、相撲で関脇まで昇進したこと、慈善活動を行ったこと、プロレスラーとして戦後の日本のヒーローになったことなど、ポジティブな場面もあるのだが、それらのシーンは極めて短く、全体に暗いのは残念。朝鮮半島との関りも、力道山のプロレスの弟子として大木金太郎(キム・イル)が登場するなどしているが、力道山が出生を隠していたという関連で語られることがほとんどで、深みに欠けるのは残念。
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