T太郎

バビロンのT太郎のレビュー・感想・評価

バビロン(2021年製作の映画)
3.8
1028
無声映画からトーキーへと移行しつつあった時代のハリウッド界隈の物語だ。
様々な映画人たちの栄枯盛衰が、ちょっと突き放したような筆致で描かれている。

非常に興味深い作品である。
これは当時の雰囲気をある程度、忠実に再現しているのだろうか。
華やかさとは、かけ離れたシーンの連続なのだ。

まず、パーティーの場面だ。
映画関係者の集まりで、それなりにセキュリティにも配慮している。
華麗なる業界人たちの華麗なるパーティーなのだろうと誰もが考える。

しかし、その実態たるや、だ。
猥雑、無秩序、喧騒、嬌声、破廉恥、混沌、尾籠、酒池肉林・・・
モザイクだらけのお下品極まりないパーティーなのである。

お上品なだけが取り得の私など、思わず立ちくらみをしたほどだ。
座ってたけど・・

そもそもモザイクを入れるから、逆にエッチになるのだ。
いっその事、全部取っ払ってみたらいいのだ。
ありのままを見せたらいいぢゃない。
是非ともご一考を。

映画撮影の現場も同じだ。
スマートさはなく、非常にワチャワチャしている。
活気はあるのだが、怒号と暴力が飛び交い、非常にワチャワチャしているのだ。

そして、これは演出の一環なのか、それとも実際そうだったのか。
死亡事故が頻発するのである。
何人も死ぬのだが、それをブラックな笑いで表現しているのだ。

普通であれば、大問題だ。
何年か前のアレック・ボールドウィンの事故のように。

ガンマンや賞金稼ぎが活躍していた西部開拓時代から、わずか2、30年後の話だ。
西部地域の人心はまだ荒くれていたのだろう。

そんな時代の大スター、ジャック。
映画好きなメキシコ人、マヌエル
映画女優に憧れる、ネリー
以上の3人を軸に物語が展開していくのだ。

マヌエルは裏方として、ネリーは女優として頭角を現していく。
時は無声映画全盛の時代だ。
彼らは無声映画の申し子だったと言えよう。

しかし、1927年。
あの「ジャズシンガー」が公開される。
そう、初のトーキー映画として有名な作品だ。

これが人々に熱狂をもって迎え入れられる。
スクリーンから聞こえてくる美しい音楽や俳優たちの歌声。
時代は一気にトーキーへと舵をきるのだ。

そして、突如として世界はお上品になる。
あの乱痴気騒ぎはどこへ行ったのだ。
もはやモザイクの出る幕なしではないか。
モザイクを取っ払えとは言ったが、そういう意味ではない。
とんだ誤解である。
お上品なだけが取り得の私は、途方に暮れたのであった。

この大きな流れの中で、大スターのジャックは苦戦を強いられる。
大真面目に撮ったラブシーンが、観客の失笑を買ったりするのだ。
このシーンは、観ているこちらも気まずくなるような、残酷なエピソードであった。

ネリーもそうだ。
一躍夢を掴んだ矢先、彼女もトーキーの壁にぶち当たるのだ。

果たして、二人はハリウッド映画界で生き残る事ができるのか。

一方、映画会社の重役に収まったマヌエルは・・・

そんな物語だ。

長尺だが、睡魔に襲われる事なく一気見した。
私は世界一睡魔に襲われやすい男として有名だが、その私が一睡だにしなかったのだ。
実に侮りがたい作品だと言えよう。

とにかく、映画史の1ページを知る事ができる、興味深い作品だったのだ。
もちろん、物語も面白いし、キャストも魅力的だった。

フランス映画の「アーティスト」を思い出しながらの鑑賞だった。
テイストは全く違うのだが、サイレントからトーキーという、こちらも映画界の大転換期を描いている。
大変素晴らしい作品なので、併せてご鑑賞するようお勧めする。

また、タイトルから「イントレランス」や「グッドモーニング・バビロン」も想起したのだが、こちらはあまり関係なかったようだ。

無声映画の栄枯盛衰ぶりを古代都市バビロンになぞらえたのだろうか。
知らん。

気になった方はおのおの自分で調べて、私にこそっと教えていただきたい。
T太郎

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