keith中村

アンテベラムのkeith中村のネタバレレビュー・内容・結末

アンテベラム(2020年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

 最近はネタバレ機能はほとんど使わないんですが、さすがに本作は、たまたまレビュアーさんたちの目に入ってしまうというリスクを考えると、「ネタバレ」ボタン押しますね。
 
 予備知識ゼロという最高の鑑賞体験ができました。
 ゼロじゃないや。ジョーダン・ピールが云々ということと、ホラー映画とだけは知っていたので、興味を惹かれて劇場に行ったのですが、ジョーダン・ピール関係なかったね。
 プロデューサーが「ゲット・アウト」「アス」のショーン・マッキトリックってことなんですね。
 
 怖かった~。
 これはマジ怖いわ。
 
 冒頭の長回しから一気に世界に叩き込まれる。
 南部様式の建物が映り、登場人物の服装から「あ、歴史ものか」と思ってると、カメラがどんどん動き、野営している灰色の服の男たち。そして南部連合の旗。
 「南北戦争ものだったんだ~」と思っていると、激しく煙を上げる建物をはじめとする、「あとで説明される舞台装置」がカメラ移動ワンカットでちょっとだけ映る。ここが見事過ぎますね。
 
 演出もいいんだけど、本作は脚本と構成が何しろ素晴らしい。
 三幕構成と捉えると、だいたい40分:30分:30分となるんですが、第一幕が40分って、あり得ない長さでしょ。
 第一幕って、普通は30分とか、最近のテンポなら20分くらいじゃないですか。
 たとえば本作でも、20分くらいのところでいったん「あっちのパート」を描いて、再度「こっちのパート」に戻ってくることもできたはず。でも、してないんだ。
 延々40分も悪夢を見せられる。ここの効果が見事です。
 第一幕は、「マンディンゴ」や「それでも夜は明ける」あたりを思い出してました。
 観終わると、本作が「現代版・それでも夜は明ける」に違いないってことがわかるんですが。
 
 そして第二幕。
 ここはいきなりの「その時代に聴こえるはずがない音」に滅茶苦茶びっくりするんです。実際今日観てきた日比谷シャンテでは、「えっ?!」って声が上がったもの。
 「ホラー映画だと思ってたけど、延々と『マンディンゴ』を見せられた。これ、ほんとにホラー映画だったっけ?」と思いかけた塩梅で第二幕に行くんで、ちらっと時計を見て、「第一幕、ながっ!」ってなった。
 で、「ああ、なるほどね。現代パートと過去パートが絡み合ってくる映画なんだね」なんて早飲み込みしちゃう。ほんとは違うんだけど。
 やっぱ、上手いわ、この映画。
 
 「現代パートと過去パートが絡み合ってくる映画」で、両パートを同じ役者さんが演じてるパターンって、大抵は「転生もの(ウォシャウスキー兄弟の『クラウド・アトラス』とか)(ってか、兄弟なの? 姉妹なの? あのシブリングズ、全然わかんない!)」と、「子孫もの(やっぱり今日も帰ってきてから焼酎喇叭呑みで、酔っぱらって書いてるんで、例が全然思いつかない。時代も近い映画でジュディ・ガーランドの『リトル・ネリー・ケリー』は思いついたけど、これって日本じゃ誰にも通じない例じゃん!)」しかないじゃないですか。だから、本作も、「どっちかなあ~」なんて思って観ちゃう。
 
 したら、第三幕の「入り」が第二幕の「入り」とまったく同じなんですよね。
 ここは「うめ~!!」と脳味噌の半分で嘆息しながら、もう半分で「こわっ!」って慄然としました。
 「うわ~。第二幕にちょいちょい描かれてた『ちょっと厭な感じ』は、そういうことだったのかぁ~!」って。
 
 本作は、「語る順番」が新しいですよね。
 「主人公がずっとその境遇にいて、からくりを知らない」だったらシャマランの「ヴィレッジ」になるし、「主人公がいきなり状況に叩き込まれる」だったら、「ザ・ハント」になる。
 でも本作は、「転生もの」か「子孫もの」と思わせておいて、第一幕が「予知夢」だった、というどんでん返しに持っていく(冒頭で示されるフォークナーの、"The past is never dead. It's not even past."って、そういう意味だったのか~! って、そこもマジ怖い)。
 しかも、どんでん返しって、普通は最後の最後にやるもんでしょ? で、スパーンと綺麗に終わるのが身上とされてるジャンルじゃないですか?
 本作では、三幕の序盤でネタを割ってから、たっぷり30分かけてエンディングに持ってく。
 ここ、最高。
 
 オープニングとエンディングの「対」の演出も見事です。
 オープニングの、長回しからのシークエンスが「日没」なんです。
 で、エンディングは「夜明け」。
 オープニングでは、はっきり見えていた色が、だんだんモノトーンになってく。
 エンディングはその逆。モノクロームだった世界に、次第に色がついてくる。
 だから、ジャネール・モネイが脱出の際に羽織った「あの服」が、次第に南軍の「灰色の服」じゃなく、北軍ヤンキーの「青い服」になってくんですよね。鮮やかすぎる演出!
 
 あと、その手前の「ロバート・E・リーの石像」も、ちょっと「猿の惑星(オリジナルの自由の女神よりは、ティム・バートン版のリンーカーン・メモリアルに近いかな?)」っぽい「悪夢感」で最高でした。
 この終盤の逃走シーンはバリ怖かったけど、ここだけやや笑えた。
 
 南北戦争の知識は若干必要だけれど、私だって高校では選択で日本史を取ったから、南北戦争の知識なんて全部映画から学んだようなもんです。
 それでも無茶苦茶楽しめるんで(=怖がれるで)、おススメです!

(って今読み返してネタバレ押してなかったと気付いて、慌てて編集し直しました! ごめんなさい!!)