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三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実のkamioriのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

議論の内容はさっぱり(サルトル読んでないと無理)だけれども、あの時代の熱量を追体験するだけでも価値のある作品だと思います。
この国で社会を変えようとすることにあれだけの人がコミットしていたという事実はとても信じがたい。半世紀ってあらためてすげえ長さの時間だと思いました。

三島由紀夫の議論の仕方は尊敬ものです。
内田樹が指摘してましたけど、重箱の隅をつついたり、相手をやりこめるようなことを一切しない。自分の主張をし、相手の反論を受け、それに対して真摯に回答する。まさに横綱相撲といったふるまいでした。

そして言葉だけでなく、プレゼンスも際立っている。
なにより瞳の美しさ。瀬戸内寂聴が「これが天才の目か」と言ってましたけど、彼の瞳はほんとうに澄んでいて思わず見つめてしまう。エネルギーに満ち足りている印象を受けます。
厳しく鍛えているので体つきもガッチリとしていて、存在感も周囲の人間とまるで違います。
メディアをうまく活用していたという証言もありましたけど、人を変えるためには、言葉だけでは不十分で、熱量やプレゼンスも重要だという点も三島は相当に自覚的だったのだろうと思います。

その視角も踏まえて議論を振り返ると、あの場における彼の目的は「論破」ではなく、彼の思想を社会的に涵養させることを狙った「耕作」だったのだろうと思いました。
後半しきりに話していた通り、もともと彼らは右翼左翼のラベルを剥がしてみると「連帯が可能だ」というほど近い思想的立場にあったわけだから、種は植っていてあとは実らせるだけだというのが三島の見立てだったのだと思います。
現にあのとき司会を務めていた人物は後に三島に楯の会に勧誘され、はっきりとした断り文句が述べられなかったとも語っていました(そしていまも三島由紀夫の研究を続けているという)。

そのように局地的な勝敗にこだわらず、大局的な効果を期待して行動する戦略性においても三島の才能はずば抜けていたのだと思います。ほんとうの天才とはこういう人のことを言うんでしょうね。。
思想に共感できるかはおくとして、人としてこれ以上なく興味深いです。

東大全共闘側はやっぱり芥さんの印象が強い。
議論の高度さはさることながら、思想に対する真摯な姿勢に感銘を受けました。たとえ同胞の意見でも、受け入れられないものについては徹底的に反論していて、三島を叩きつぶすのではなく、議論そのものをしにきているのだとわかります。
(彼の話の迫力もさすが演劇人で、この人もプレゼンスに自覚的な人だなと思いました。子供を連れてくるというやり方も含めてね)。

途中、全共闘側が内輪であーだこーだと言い合っていて、その間に芥が三島のタバコに火をつけ、二人でその様子を苦笑いして見ていた場面が印象に残ってます。
そんな関係性でできる議論がいちばんですね。。
さいきんの自分は忖度とあきらめばっかだな、と反省する機会にもなりました。

2020年21本目
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