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あの頃。のHrtのレビュー・感想・評価

あの頃。(2021年製作の映画)
3.6
鑑賞後、何も残らないのが良かった。
今泉力哉作品は脚本もオリジナル脚本がいいのだけど、演出だけでも良い作品になることは『アイネクライネナハトムジーク』や『his』でも証明済みだ。
松坂桃李や仲野太賀は本当に上手い役者。
そして監督とも相性が良い。
「弱っているときに聞くアイドルソングは麻薬です」と大根仁監督作『モテキ』ではアイドルのアディクティブな側面を的確に言い表していたが、本作では擦り減った心の隙間に推しが入り込んでくる瞬間を決定的に捉えていた。
しかも『桃色片想い』で始まり『恋ING』で終わる一方向性。
好き勝手推しについて喋り狂うあのライブハウスの空気感も極めて一方的だ。
あの6人の流暢さはもはやプロのトークライブ、あるいは何かコンセプチュアルな舞台を見ているようだった。
前述した主要キャストに加え、今泉作品に出演経験のある役者もこの異彩な空間を見事に遊泳している。
ハロプロは当時の国内音楽のメインストリームだったが、それを通したあの研究会の活動はアンダーグラウンドそのものだ。
一見すると遅れてきた青春期モラトリアム。
だがいつしか一人一人思い思いの道へ進んでいく。
生活は変わろうとも彼らにとってのハロプロは人生の中心点だった。
劇的な転換点もなく進んでいくこの物語は自分の中に何も残さず、ただ自分にとってのあの頃を想起させるのみに留まった。
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