TaichiShiraishi

ファーザーのTaichiShiraishiのネタバレレビュー・内容・結末

ファーザー(2020年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

予告編などを見ると、認知症に冒された父と娘の感動物語みたいに見えるが、もっと暗黒な話だった。



娘目線で父を見る話だと思っていたら、まさかの記憶が混乱している父目線で家族と他者を見る物語で、時系列も場所も入れ乱れるし、同一人物の顔が違っていたりするので、最初はかなり混乱する。舞台が限定されていて、劇でやるのに向いているストーリー(当たり前だが)に見えるが、本作は編集およびカメラワークで巧妙に主人公の時間間隔のなくなった脳内を映像化してみせる。



そして、主人公はどれだけ病状が進んでも毅然とし、ユーモアをもって過ごしているが、だんだんと余裕を失っていく。その様を繊細に演じて表現したホプキンスは見事としか言いようがない。主人公本人が「ファーザー」であることでなんとか自分を保っていて、しかしそれが彼の心をむしばんでいくというストーリーゆえに、一番最後に彼が一個人に戻ってずっと来ていた鎧を脱いで本音を吐露する場面が胸に迫る。



その場面も唐突に来るわけではなく、いろんな違和感の積み重ねの結果、最後に謎解きのように「あの人はこの人だったのか」と腑に落ちる展開を迎え、それと同時にもうアンソニーが取り返しのつかないところまで来ていることを突き付けてくる作りになっているので、上手いし、まったくきれいごとになっていないので、本当にグサグサきてしまう。



高齢化社会まったなしの日本人こそ見ておくべき傑作。
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