イベリー子豚

アシスタントのイベリー子豚のレビュー・感想・評価

アシスタント(2019年製作の映画)
3.9
「【センス】多め【情報(説明)】少なめ案件」
「局地的『SHE SAID』」
「【業界あるある】なのか」
「【一般ないない】なのか」
「『相席食堂』的副音声の需要」
「【電話】の暴力性ってあるよね」
「人心掌握の基本メソッド
【褒めるときは直接ではなく第三者経由で】」
「《ソファは嫌だよ》」
「《それで……君の望みは何なんだ?》」
「《彼女ならきっと利用して上手くやるさ》」
「エンタメ性薄め、後味悪め、作品性は……」






※ネタバレではありませんが
やや、内容に触れておりますので悪しからず。








「タイトルの出し方」から始まり
「真上アングルの食事」
「1人だけアウターを引き出しに」 
小技も含めて、とにかくセンスは迸ってます。


ただ如何せん、情報がない。


オフィスや給湯室、トイレの様子から
どうやら業界最大手には見えません。

新進気鋭のベンチャーなのか。

でも、政府関係のコネはあるし
出張先では一流ホテルにスィートで
経営難の弱小企業にも思えません。


社員数はそれなりにいそうだけど
経理なのか秘書なのか総務なのかも
ハッキリしない。


ターニングポイントとなる
駆け込んだ先は
人事?法務?専属カウンセラー?



果たして
映画制作会社のリアリティを
この作品はどこまで再現しているのでしょうか。


佐久間さんか加地さんに
「ちょっと待てぇ!」で補足してくれなきゃ
理解度が追いつかない。


「会長の演出」も成功なのか失敗なのか。

そもそも何故「会長」?
「社長」じゃなくて??

「影響力がある人物」にしては
行動範囲がチャチいような……。

「中小ワンマン経営者」のハメの外し方に思えます。


そして一番は主人公。


職場の空気は終わってるし地獄だけど
彼女も彼女でアクが強い。

プライドと自意識、高学歴からくる不満が
髪型から伝わります。


「マルチタスクをコスパよくこなし
さりげないフォローと先読みのエキスパート」な
「ザ・有能」じゃないんだよね。


「上司にしたくない」が存在する一方で
容姿や性別を除外して
「クソ同僚・ゲスおやじ転がし」スキルが低く
「可愛がられない・敬遠されがちな部下」もいる。



ハラスメントは置いといても
些細な冗談や同僚の態度、やり甲斐のない仕事で
常に不機嫌。

イライラと嫌々で効率化は図れない。

ポスターの表情ったらないよね。秀逸。
「何ひとつ納得出来ない」
「承服しかねる」フェイス。


それに
全く頼りならないことは明白でも
周囲が差し出す手を振り払い、
準備も武器も持たず
猪突猛進で本丸を狙うのは浅はかすぎる。


カウンセラー(もしくは人事?)の言葉も
ある意味、正論なんですよ。

「彼女とはその後、話を?」

まさにコレ。

精神汚染中、特有のやつ。

「何故、あの人ばっかり」
「何故、自分ばかり」
「私だって」で頭がイッパイ。


結局、主人公にしても相手のことを
本気で心配してるワケじゃない。


自己憐憫を感情のまま
一般論に込めて発散してるだけ。

それでは世界も体制も変えられない。



僕としては
『獣になれないガッキー』や
『吉高ちゃん、定時で帰れまてん』の方が
クソ上司の精神攻撃のシンクロ率が高かったですね。



と言うことで
この映画の問題は
「ハラスメント断罪」に軸観るのか
「ルッキズム/ユニバ下着女子・外車プレゼントおじさん」への妬み憎しみや
「主人公のストレス・メーター」でドキドキするのか
「映画制作の裏側と地味な作業」で
興味を惹きたいのか……全部が中途半端なところ。


ただ、もしかしたら
そのモヤモヤこそ
歪に完成されてしまった
「弱肉強食」「適者生存」な
複雑に入り組んだ現代社会を表現していて
そこに鋭いメスを入れ、
さまざまな謎や疑問を徹底的に究明……
しようとした結果なのかも。




それとも
折角、「ある1日」にフォーカスしてるなら
フィクションなんだし
もっとそこを活かしたエピソードや
ダイナミックなワンカット、
定点ポジションみたいな演出が
あって良かったのかなぁ。





多分、取捨選択の末の
87分・最適化だとは思いますが
エンタメとしては腰を据えてのロングスパンで
扱うべき題材だった気がします。



最後に疑問をひとつ。

【パトリック・ウィルソン】は何されてる方なの??



《誰が?》《……みんな、笑い話にしてた》