むらむら

ビバリウムのむらむらのレビュー・感想・評価

ビバリウム(2019年製作の映画)
5.0
「くっ、新手のスタンド使いか……」

住宅街から出られなくなるカップルを観て、思わずそんな台詞が口を付いて出てくる不条理ホラー。

新居を探そうと不動産屋に来たトム(ジェシー・アイゼンバーグ)とジェマ(イモージェン・プーツ)のカップル。不動産屋のマーティンに案内され、郊外にある住宅地・ヨンダーへと足を運ぶ二人。気付くとマーティンは姿を消しており、均一的な住宅街に二人は取り残される。二人は、どうやっても抜け出せないこの住宅地に閉じ込められてしまった。

時間に閉じ込められるタイムループ作品は多いが、これは場所に閉じ込められるいわば「ロケーションループ」作品の一つ。「CUBE」「パラドクス」「トランス・ワールド」「イン・ザ・トール・グラス」「アルカディア(フォローしてるYuiさんに教えてもらい鑑賞)」くらいしか同コンセプトの作品がないと思う。他にあったら教えてください。

(以下、ちょっと中盤のネタバレを含みます)

同一デザインの建売住宅が地平線の向こうまで続く風景を見て「これ日本だよなー」と呑気に構えてしまう俺たちとは違い、トムたちカップルは必死でこの悪夢から抜け出そうとするも抜け出せない。このへんの画はなかなか不気味で、俺が積水ハウスとかパナホームの予約してたら、即座にキャンセルしてしまいそうなインパクトある。

疲れ切った二人が一晩を過ごして家から出ると、そこには赤ん坊と、メモ用紙が。

「この子を大人になるまで育て上げたとき、貴方たちは自由の身となります」

そうして、トムたち二人は、百日で少年へと変貌する、タケノコのように成長の早い謎の子供と同居生活を強いられることに。

この作品、ホラーだと思うんだけど、この子供が一番怖かった。「ババドック」と「聖なる鹿殺し」を混ぜたみたいな強烈な印象を残す。

特に、ムンクの叫びみたいな表情で、ゴジラの高音域だけ取り出したような「ピギャー!」って絶叫をするシーン。これやられたら精神参るわ。ジェマが何度も「私はあんたの親じゃないからね」って断言するの、めっちゃ共感。

タイトルはラテン語で「終の棲家」の意味。冒頭のカッコウの托卵シーン(こないだ観た「美しき運命の傷痕」も、同じような冒頭でデジャブった)と合わせると、この作品の言いたいことは推測できる。

ただ、この状況に至った理由について、「おそらくこういうことなんだろうなー」って示唆はされるものの、明確な解決とか、カタルシスがないので、ちょっと消化不良だったかも。「ブラックミラー」の1エピソードっぽい、と思ってたら、この監督、「ブラックミラー」の制作会社で働いてたのね。

ちゃんとオチの付くロケーションループ作品なら「トランス・ワールド」とかのがオススメだけど、途中から育児放棄して、取り憑かれたように穴ばっかり掘り始めるトムの狂気っぷりとか、途中から完全にヒステリーババアにキャラチェンしてるジェマとか、そして勿論、不気味な子供とか、役者陣の鬼気迫る演技が良かった。最後のほうの家の深部に向かうシーンも印象的。

ちょい役だけど、序盤に登場する不動産屋マーティンのハゲっぷりが絶妙で、絶対トムとジェマ、不動産屋に入った瞬間に「あっ……ハゲてる……」って顔見合わせて笑ったろうなー。

それと、まさかエンディングでXTCが流れるとは思わなかったので、ちょっと嬉しかった。その「Complicated game」って曲にも「トム」って登場人物が出てきます。

電気水道とおってるし、食事は毎朝運ばれてくるし、ニート的にはこんな生活も悪くないかなーって気もする。欲を言えば、ここにツタヤディスカスさえあれば、俺にとっては十分、終の棲家になりそう。

叫ぶ不気味な子供? そんなの一撃で頃……。
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