緑雨

グッバイ、レーニン!の緑雨のレビュー・感想・評価

グッバイ、レーニン!(2003年製作の映画)
3.8
社会全体が抱いた「社会主義」という共同幻想に、家族の中で母と子が描く小さな共同幻想が重なっていく。この映画は、幻想に踊らされた彼らを笑ったり断罪したりはしない。あくまでまなざしは優しい。

一方的な息子の「嘘」に終始していた物語世界が、いっきに広がりをみせるあたりが巧い。生ぬるいまとめ方で落とされるのではないかとちょっと心配していたけど、いい意味で裏切られた。結末の曖昧さもまた心地よい余韻を生んでいる。

そしてそういったドラマとしての素晴らしさに加え、映画的な楽しさもところどころに埋め込まれている。ヘリに吊るされたレーニン像が出現する場面はもちろんのこと、アレックスとララ(彼女はとても魅力的でストーリーに爽やかなアクセントをもたらしている)が初デートで東ベルリンの夜の街を見下ろすシーンや屋上でアレックスが叫ぶと丁度W杯優勝を祝う花火がいたるところで打ち上げられるシーンなどは、美しく、また、映画的興奮をもたらしてくれる「絵」になっていて、印象的。
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