えいがうるふ

セイント・フランシスのえいがうるふのネタバレレビュー・内容・結末

セイント・フランシス(2019年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

自分の印象よりもはるかに評価が高くて驚いた。個人的にはやや評価に迷う作品だった。

国を問わず、決して若くもない微妙なアラサー年代で今手にしている自由と不確実な未来を前に生き方に惑う女性を描いた作品が近年とても多いのは、それだけ同じ状況にある層が世界的に増えているからなのだろう。
「フランシス・ハ」の主人公はもう少し若い年代だったが「わたしは最悪。」は観た時期も近かったので、なんだか主人公の設定がごっちゃになる。ちなみにこの作品の主人公ブリジットは倫理観や計画性には欠けているもののコミュニケーション能力と実務能力はかなり高く、気立てよく前向きな性格。

とはいえ、出会ったばかりの男とあっさり寝て、なし崩しのあいまいな関係のままあっさり妊娠するとこれまた迷いなくあっさり中絶を選び、その直後にまた簡単に別の男とワンナイトしちゃうのはさすがにイージーすぎて全く共感できなかったが、そんな主人公でも「ダメダメだけどポジティブ!」などと同性からも概ね好意的に受け取られている様子にびっくりした。自分の感覚が古いのだろうか?
別に何人と付き合おうがワンナイトしまくろうが構わないが、不慮の妊娠で人生設計が崩れるリスクを負い身体も傷つくのはいつも女性の方だ。本人の自由とはいえ、いや自由だからこそ、もうちょっと自分の身体を大事にしようよ・・と思ってしまった。(まして最初から全然生む気が無いならなおさら!)

それでもブリジットが同世代女性たちから圧倒的支持を得るのも分かる気はする。
そもそも本人の自己肯定感も低く決してライバルや敵にはならないダメダメキャラでありながら、やりたいこと・やりたくないことへの意志が言動に直結していて、多くの女性の「言いたいけど言えない」「やりたいけど出来ない」をなんだかんだでなし崩しにやってのける。自分自身のことはかなりだらしないけれど、周囲の同性への共感性は高く察しもよく、勇気と思いやりもある。公園で出会ったマタハラ女(?)に毅然とした態度で意見するシーンなんてまさに勇者。こんな友だちが一人いてくれたら、確かに生きづらい女の人生の心の支えになりそうだ。

そして、さらにこの映画の評価を爆上げしている最大の要素は、やはりフランシスの存在だろう。可愛いだけじゃなく、賢く率直で不躾なほど自由で伸び伸びと好き勝手に生きている彼女は、様々な社会的抑圧の中で生きる多くの大人の女性にとって希望であり憧れでありジェンダーフリーを象徴するアイドル、まさに「聖フランシス」として描かれている。
そのフランシスが最後にブリジットに向かって大声で何事かを叫ぶ。一体何かと思えば・・そのあまりの愛おしさに思わず涙があふれた。

ところで、多くのレビュアーに優しい!と絶賛されているブリジットの彼氏、本当に優しいだろうか? 中絶後にいくら気遣ってくれたからって、もともと避妊が女任せだったのは他の男と一緒でしたが? その後に責任を感じてサポートしてたのは人としてまともだったけど、いちいち及び腰で場当たり的な対応で頼りになる印象ではなかった。
でもその程度でも「なんて優しい彼氏!」と多くの女性に絶賛されちゃうのが世の現実なんだろうな・・・はあ。