nt708

空白のnt708のネタバレレビュー・内容・結末

空白(2021年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

『茜色に焼かれる』もそうだが交通事故をきっかけとした物語展開、それによって描かれるマスコミ批判は最近流行りの題材なのだろうか。ここ数ヶ月で公開された邦画の多くに何らかの形で交通事故が関係していることを考えると何らかの意図や潮流を感じ取らざるを得ない。確かに交通事故というシチュエーションは物語を展開させるうえで大いに効果的なのだが、些かありふれてもいるため、それをどのように扱うかによって制作陣のセンスが伺える。

その点で本作は事故に遭うまでの展開、事故が起こってからの「空白」の時間の描き方が実に丁寧だったように思う。台詞でもあったように、誰が本当の被害者で、誰が本当の加害者なのか。否、生まれるのは被害者も加害者もない単なる「空」だけかもしれない。善悪の危うさを描いている映画はあまた存在するが、本作はなかなか良くできている方ではないだろうか。

しかし、一個人の感想として車を運転していた方が自殺で亡くなったのは悲しい。状況からしてなかなか防ぐのが難しい事故だっただろうし、被害者の父親として彼女を許してやっても良かったのではないかと思う。なぜ劇中で彼女だけが救われなかったのか、正直その理由がわからないのである。あのような終わり方をするのであれば、一連の事故に巻き込まれた人々それぞれにそれぞれの形で救いの手を差し伸べてほしかった。

その一点を除けば、本作は良作だ。事故にまだ遭う前、カフェを出た少女の手元を写したショットが今も脳裏に焼き付いている。あのワンショットが伏線になっていたとは、、映画はやはりワンショットも見逃せない。
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