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空白のHKのレビュー・感想・評価

空白(2021年製作の映画)
3.9
もしも事故で死んだのが父親の方だったら、花音は涙を流したでしょうか。
ちょっとそんなことも考えてしまいました。

本作の父親のことを狂気、暴走、怪物などと書いてあるネットの記事をよく見かけますが、私はそれほど添田が異常な人間には見えませんでした。
むしろ、それだからリアルで身近に感じるし、私自身も一歩間違えばこうなってしまう怖さも感じます。

もっと言うと、すべての登場人物に私自身と重なる部分があります。
こんな人いるよな~という他人事ではなくて、どの人も自分の一部。
ハッキリしない態度でいきなりキレる店長も、自己中で空気を読まないパートのオバチャンも、クラスメートの誰からも印象が薄いと言われる少女も・・・

“空白”とはなんでしょう。
店長と少女の事務所での“空白”の時間か。
大事なものを無くした人の心にポッカリ空いた“空白”か。
父親は今さらながら、娘が好きだった油絵を描いたりマンガを読んだりして、娘との“空白”の時間を埋めようとします。

実はこの監督のことは全く知らず、たまたま『銀の匙』は以前誘われて観ましたがさして面白かった記憶もなく、本作が同じ監督の作品だったとは意外です。

重い題材ですが重苦しさはあまり無く、むしろそれだから身近に感じられた気もします。
ただ、マスコミやメディアの描き方が浅く類型的だったのはちょっと残念。
もっとハードな救いようの無い話にも成り得たでしょうが、そうしなかったのがこの監督の優しさなんだろうと思ったりしました。
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