3104Arata

空白の3104Arataのレビュー・感想・評価

空白(2021年製作の映画)
3.8
<22年06月>
【不思議と温かい気持ちになれるヒューマンドラマ。そして、空白の意味。】
・2021年公開の日本のヒューマンドラマ映画。
・スーパーアオヤギで万引き未遂をしたと女子中学生 花音が店長 青柳にバックヤードに連れていかれるも、逃げ出す。走って逃げいている途中で花音は交通事故にあい死んでしまう。普段から横暴な態度で人と接する花音の父 充は、娘の身の潔白(万引きをしていない)を証明しようとスーパーアオヤギをはじめとした関係者を相手に執拗に辛辣に迫っていく…という大枠ストーリー。

[お勧めのポイント]
・どこか心がほぐされる×考えさせられる(実は)あたたかいヒューマンドラマ
・古田新太さんの心・行動の変化にグッとくる
・伊藤蒼さんの映画[さがす]とのギャップが圧巻

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[物語]
・一番大事な確信を見せない(空白のある)物語、ここが考えさせれる一番のポイントになりました。映画冒頭で万引き未遂で捕まる花音ですが、こちらが鑑賞する映像だけでは「本当に万引きしたか否か」の確信が見えずに進んでいくのです。その上で、「万引きをしていないことを証明しようとする父」「万引きをされたから注意しようとしただけのはずが交通事故に合わせてしまったこと、そこから生まれた状況に苦しむ店長」がベースとなって話が進んでいきます。そして、その2人を取り巻くのが「正義を押し付けるパート 草加部」「(新しいパートナーとの間でできた)身重の元妻 翔子」「花音をはねた車を運転していた女性の母緑」「充の弟子として漁師として働く龍馬」…中心の2人だけでなく、周囲を取り巻く人々の行動や価値観が無駄なく、絶妙に混ざり合って1つの物語が構築されており、見応え抜群でした。

[演出]
・𠮷田恵輔監督と言えば、以前、映画[ヒメアノ~ル]を観させていただいて、そのえぐすぎる表現などに衝撃を覚えた記憶があります。そんな前提知識があったので、結構身構えて鑑賞したのですが、全然違いました。笑 いや、良い意味で違ったのです。びっくりするくらい「人間の心の動向」を丁寧に描かれているように思いました。
 - 例えば、充の弟子の龍馬は、表面的には今風のチャラそうな若者ですが、その奥にある優しさを魅せてくれて、こちらを温かい気持ちにさせてくれたり。
 - 例えば、正義を押し付けるパート 草加部は、人に頼られることで自分の本当の弱さを隠したいがための行動に見え、強制の優しさ・正義感がもたらすものは一体…ということを考えさせてくれたり。

・などなど、全ての登場人物の心の動きが無理なく無駄なくこちらに伝わってきて、いろんな角度で考えるきっかけをくれる演出になっているなぁと感じました。私自身は、とても良い意味で「𠮷田恵輔監督」というブランドを裏切られた一作になりました。

[映像]
・映画[ヒメアノ~ル]とは異なり、えぐい映像をリアルに魅せることは一切ありません。にもかからず、交通事故の凄惨さ伝わる。演技と台詞で魅せる工夫に感じました。

[音楽]
・際立って感じたことはありません。

[演技・配役]
・すべての役者さんが素晴らしかったです。鑑賞後に意識せずとも全員覚えていられるくらいに、それぞれのキャラクターの特性が伝わってきました。
・伊藤蒼さんは映画[さがす]で初見でした。その後、こちらの作品を観たら、その演技の違いに衝撃。個人的には[さがす]→[空白]の順番でよかったと。この順番で観たからこそ、この「ほぼ無口な演技」が素晴らしく感じました。
・古田さんはさすがですね。嫌味っぽい暴君さは最大限、でもどこか憎めなくなるような優しさが垣間見える。娘を亡くした辛すぎる状況でありながらそれでも成長していく充(父親)、を感じ取り、どこか嬉しさすら感じてしまいました。これぞ「共感」というやつですね。
・弟子の龍馬役の藤原季節さんも素敵。今風の若者×でもいいヤツの感じが見事で、この映画を暖かくしてくれるキーマンの役割を見事に果たされていたように思います。
・松坂桃李さんの魂の抜けた店長役も寺島しのぶさんの「押しつけの正義・親切」草加部役も、本当に皆さん、役者さんであることを忘れるくらい、登場人物そのものにどっぷり浸かって観れてしまう、素晴らしい演技だったと思います。

[全体]
・総じて、見応えのあるヒューマンドラマでした。
・タイトル「空白」をどのようにも解釈できる。キャラクターそれぞれが持っていた「空白」、万引きした瞬間が見えない「空白」、父と娘の「空白」…

・最後に、この映画を通して私個人が感じた「空白」の哲学を。ありがとうございました。
 「表面ばかりを気にして生きている限り、誰しも空白(の期間や関係)を持ってしまうもの。でも、その空白は、後で何かを埋めることによって、人生をもっと本質的にもっと前向きに生きれる可能性を秘めた素敵なモノでもある。日々、目の前のことに必死になることも大切だけど、たまには自分自身の空白を探して、そこに何かを埋めてみては?もしかしたらそこには、優しさとか喜びとか幸せとか、とても大切なもので埋められるかもしれないよ。そんな風に人生を大切にしていってくださいね。」

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