マヒロ

Swallow/スワロウのマヒロのレビュー・感想・評価

Swallow/スワロウ(2019年製作の映画)
3.5
裕福な家庭に嫁いだハンター(ヘイリー・ベネット)だったが、仕事ばかりでまともに会話を交わさない夫と、ハンターを跡継ぎを産む存在としか見做していない義父母との生活に鬱憤を溜め込んでいた。そんなある日、偶然見つけたガラス玉を咄嗟に飲み込んでしまったことをキッカケに、様々な異物を飲み込む癖がついてしまい……というお話。

大企業の重役である夫を支えるために、ひたすら個を消して“良き妻、良き母”になることを強要されるという重圧がジワジワとハンターの身を蝕んでいき、おかしなものを飲み込んでしまう異食症を引き起こしてしまう。怒鳴りつけたり悪口を言ったりするようなあからさまなパワハラはないが、ハンターが話していても世間話を無視したり話を遮ったりと、その態度にありありとパーソナリティへの興味の無さが滲み出てきてしまっている感じが、真綿で首を絞められるような厭さ。

涎や血その他の体液や排泄物がよく出てくるのが特徴的で、お金持ちらしい整頓された生活感のない家が舞台なことも相まってより際立った生々しさがある。
ただ異物を飲み込むだけではなく、消化されずに出てきたそれを丁寧に取り出して保管しているあたりが奇妙なところだが、お飾りの妻として完全にレールの敷かれた人生を歩みつつある自分が、誰にも指示されずに苦痛を伴って成し遂げられることが“異物を飲み込み身体を通過させること”という結論に至ったのかなと思った。やや飛躍した考えだなと思っていたんだけど、それが何のメタファーなのかは途中で何となく分かるようになっていて、ある種の異物であるそれを自分の身体に受け入れるか否か……というところが一つの焦点であったことに気付かされた。かなり変わった題材ではあるんだけど、女性の権利についてストレートに描いた作品でもあるというのが面白い。

主演のヘイリー・ベネットは、大人の女性らしい妖艶な雰囲気もありながら子供っぽい幼さも垣間見えたり、かと思ったらくたびれた人並みの顔つきも見せたりと、シーンによって様々な空気感を纏って現れる独特の存在感がとてもよかった。ちょっと影のあるシャーリー・マクレーンみたいな不思議な魅力のある人だと思う。

(2023.116)
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