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犬は歌わないのギルドのレビュー・感想・評価

犬は歌わない(2019年製作の映画)
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【猫殺しがどこにでも起きる世界でも力強く生きる姿を救済する】
初の宇宙飛行犬に抜擢されたライカと生まれ故郷モスクワに住む動物たちの実態を描いたドキュメンタリー映画。

久しぶりにドキュメンタリー映画で深く考えさせられた作品でした。
タルコフスキー監督「ストーカー」、ハイネマン監督「カルテル・ランド」、ハネケ監督「ファニーゲーム」を足して3で割ったような、そんな作品かな。

ドキュメンタリー映画にしては間の取り方・自然や廃墟の撮り方までタルコフスキー監督「ストーカー」と雰囲気が似ていて、そこが他のドキュメンタリー映画にない魅力だと思った。これは恐らく動物実験にされる動物らへの救済とも取れなくもないけど、授業的な雰囲気はないのでそこは良かったかも。

印象的に思ったシーンは犬と猫が絡むシーンがあって、そこで抱くある感情は見た多くの人が持つと思う。
けれども、それに対して既に匂っている「力関係」は宇宙開発の中でも、実生活の中でも既に存在する。
猫のシーンで得た感情に対して、場所や視点を変えると実はどこにでも存在する「ファニーゲーム」のようなカウンター・狡猾さがあるのも特徴的だと思う。
徹頭徹尾、犬の視点から社会を追う撮り方だけでなく随所に散りばめられた強烈なシーンはアニマルウェルフェアが叫ばれている昨今で作るのが非常に難しく、そういった意味で「カルテル・ランド」のような撮り方に凄みがあると思う。


けれども、そんな撮影を通じて気持ち悪さを享受する映画かと言えばそうでもない。
現代の科学進歩は動物たちの犠牲のもとに成立してる、と雄大に語る映画だけではない。

人間のエゴの名の下に行われる実験・ビジネス・見世物・差別も、人の目線からすれば正義であっても動物の目線では同じとも限らない。
吐き気を催すほどの世界でも、それでも力強く生きる姿は確かに存在する。
そのように演出した人間側への「皮肉」、人が支配する世界で力強く生きる動物たちへエールを送る「救済」、人間も犬も動物的な暴力性がある「警鐘」のいろんな要素がごちゃまぜになった、そんな作品かな。

多くの人におすすめできる映画ではないけど、社会の構造を見つめ直す意味で良い映画でした。
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