ブルームーン男爵

TITANE/チタンのブルームーン男爵のレビュー・感想・評価

TITANE/チタン(2021年製作の映画)
4.5
本作でデュクルノーは女性監督2人のパルムドール賞受賞監督となった。もう二度と観ないし観たくもないけど、想像のはるか上を行く奇作・怪作。バイオレンスシーンがきついので苦手な人はやめたほうがいい。私は目を閉じたりして凌ぎましたが、途中退場されている方もチラホラ。

本作は「サイコ・スリラー・バイオレンス・ラブロマンス」とでもいおうか。性・人種なども関係なくすべてのボーダーが消失する現代社会にあって、いよいよ生物と無生物の区別も融解し、本作の主人公は聖母マリアとなり、男女の性愛も、疑似的な父子愛も、無生物愛も全てを超越する存在として、初の生物と無生物の子供(次世代のキリスト)を降誕させる。

未来学者カーツワイルは、2045年には、AIが人類の知能を超える「技術的特異点」(シンギュラリティ)を迎え、脳はネットに接続されるようになるという。つまり、もはやAIが生物を超越する存在となりうる未来が迫っている。そんな近未来に向け、もはや生物と無生物のボーダーが融解するのではないかという現代的な恐怖心と、それを超越する存在への期待(救世主)というのを、うまく描写した映画だったと思う。

※ 以下、ネタバレ含む。

事故で頭にチタンを埋め込まれた少女が車を恋愛対象とみるようになり、大人になってセクシーダンサー・連続殺人鬼になるが、カーセックス(主人公と車が性行為を行う)して、車との子供を妊娠する。主人公はその後、マッチョな消防士の行方不明の息子に成りすまして、疑似的な父子関係を築く。結局、主人公は、最後に男性性の象徴の車との子供、つまり、生物と無生物の子供を神々しく命を賭して降誕させるのだ(※ 映画の解説であって、私の頭がおかしいわけではありません)。

主人公は女だが、男性になりすますことで、男性と女性という性別が曖昧になっていく。主人公が出す母乳や出産で流される血は全て真っ黒だが、これはオイルであろう。つまり、主人公は生物でありながら、機械との子供をはらみ、徐々に生物と無生物のマージナルな状態になっていく。この様がなんとも不気味だった。

主人公が転がり込んだマッチョな消防士は、典型的なマッチョイムズの権化に見えるが、家で踊るときはどこかフェミニンである。バスルームはピンクである。また、注射でなんとか男性性を保持しようとするが、ある時、過剰摂取で意識を失ってしまう。そんな彼を抱きかかえる主人公はまさに死せるキリストを抱く聖母マリアにみえる;画面はそれをミケランジェロの「ピエタ」の構図をとっている。最後、主人公は命を賭して子供を産み、主人公の生んだ赤ちゃんはマッチョな消防士抱きかかえられる。彼は新しい救世主の育て親になるのだ。

もう何がなんだか分からないだろうが、書いてて私も訳が分からない笑。上記は半分は知ったかぶりと分かったふりである。米国の映画レビューサイトのRotten tomatoesでは、批評家89%・観客85%の支持でかなり支持率が高いのが意外。映画史を塗り替える衝撃作と言われているが、たしかに想像を超える衝撃である。ほんとに「規格外の怪物」。たぶん普通の人は観なくていい、いや、観ない方がいい映画(笑)。