ブルームーン男爵

薔薇の名前のブルームーン男爵のレビュー・感想・評価

薔薇の名前(1986年製作の映画)
3.8
イタリアの作家の故ウンベルト・エーコの同名小説が原作。5500万部以上を売り上げたベストセラー小説の映画版。ウンベルト・エーコは数万冊に及ぶ蔵書を有した教養人であり、知的小説で有名である。特にキリスト教への理解が深く、本作にもそれがよく表れている。

とても濃密でその奥深い世界観や、中世の陰鬱とした修道院を舞台とした殺人事件の謎解きに目が離せない。考証的にも凝っており、修道士は頭の頂点を剃り上げる「トンスラ」という髪型となっている(日本で有名なザビエルも禿げているのではなく、剃ってあの髪型になっている)。

もともと主人公のウィリアムは、フランシスコ会とアヴィニョン教皇庁の間の神学論争を調停する目的であったが、その訪れた修道院では怪死が相次ぎ、その事件の真相に迫っていくというストーリー。修道士ウィリアムと、その弟子のアドソ(メルク男爵の末っ子)というのも探偵とその弟子という探偵もののオーソドックスな人物構成である。

ストーリの構成自体はいたってシンプルで観やすい。ただ、本作で言及されるアリストテレスの「詩学」の第二部(実在性すら議論がある)や、ストーリーの重層低音となる終末論、異端とされたドルチーノ派、フランシスコ会における清貧論争、神聖ローマ皇帝とアヴィニョンに移った教皇の争いなどが物語を重層的で複雑なものとしている。異端審問官ベルナール・ギーは実在しており、フランシスコ会のカサーレのウベルティーノも実在の人物であり、史実とフィクションの絡み合いも興味深い。

なお、主人公ウィリアムを演じるのはショーン・コネリー。そして弟子のアドソ(見習いの修道士役)は、クリスチャン・スレーターだが、その後、お騒がせ俳優になってしまった。

ただやはり映画としていうと、秘密の蔵書の部屋のセットなどがいかにも創作の作り物っぽい。もう少しシリアスでリアリスティックな描写だったらさらにその世界観に入り込めたと思う。アドソが恋に落ちる貧民の娘もあそこまで不快感のある格好にしなくてもよかったと思う(タイトルの薔薇とはその彼女の暗喩と考えられている)。ただ非常に面白い作品なので視聴の価値あり。