ブルームーン男爵

梟ーフクロウーのブルームーン男爵のレビュー・感想・評価

梟ーフクロウー(2022年製作の映画)
4.2
予告編的に勝手にホラー映画と思い込んで観に行ったら、朝鮮王朝時代の記録物「仁祖実録」に記録された史実にインスパイアされたサスペンスだった^_^;。シリアスな感じかと思ったら、冒頭はコミカルなシーンも多くかなり観やすかった。

それにしても本作は歴史的な背景を知っておいた方がより面白いだろう。

もともと朝鮮は「明王朝」に朝貢していたが、「清王朝」(当時は「後金」といったが)が勢力を拡大し、清王朝は兄・朝鮮は弟という兄弟国の関係であるとする和議を結ばされる。しかし、朝鮮は清王朝を”蛮夷”と考えており、その後、清王朝による臣従要求を拒絶。激怒した清王朝が朝鮮侵攻を行い、圧倒的な軍事力で朝鮮を制圧し、服従を強いたのだ(丙子の乱)。この様子は映画「天命の城」に描かれているのでぜひ観てほしい。

映画中で何度か出てくる「南漢山城」というのは、この丙子の乱の際に、朝鮮王が立てこもった山城のことである。この丙子の乱では、映画にも出てくる朝鮮王の仁祖が、清王朝の皇太極(皇太子)のホンタイジに、平服で「三跪九叩頭の礼」による臣下の礼を行い、許しを懇願し、不平等な和議を飲まされている。映画で言及される「屈辱」とはこの歴史である。この戦乱の和議の結果、朝鮮王は長男を人質として清王朝に渡していたのだ。映画で、世子(王の跡継ぎ)が戻ってくるというのは人質として清王朝に送っていた息子が帰還するということだ。

映画の朝鮮王が清王朝を嫌っているのはこのような背景がある。よく聞いていると、家来が朝鮮王を「陛下」ではなく「殿下」と呼んでいたと思うが、清王朝の皇帝が「陛下」であり、その下なので「殿下」ということである。朝鮮王が”粗末な服”などと憤っているのも、国王といえど格下の服しか着用を許さない、清王朝の圧政を示唆している。

さて、映画でのこの謀殺というのも、清王朝に染まった世子と、清王朝を嫌う国王という対立軸から生じている。そして、国王も猜疑心が強いが、この国王がクーデターにより官僚の一派により擁立されたためである。

本作はこうした清という強大な王朝に翻弄され、隷従を強いられる小国朝鮮を舞台に、その内部の権力抗争などを交えつつ、フィクションを加え、見事なサスペンス映画に仕上がっている。二転三転する展開に始終釘付け。お薦めの一本。