サマセット7

ジョン・ウィック:コンセクエンスのサマセット7のレビュー・感想・評価

4.5
ジョン・ウィックシリーズ第4作品目。
監督はシリーズ通じて元スタントマン(マトリックスなど)のチャド・スタエルスキ。
主演はシリーズ通じて、「スピード」「マトリックス」のキアヌ・リーヴス。

[あらすじ]
前作にて、平穏のために主席連合との対立を改善しようと奮闘した、元最強の殺し屋ジョン・ウィックだったが、結果として、さらに連合との対立を激化させることとなった。
主席連合に報復攻撃を加えるジョン・ウィック。一方で、主席連合は、冷血非情な「侯爵」(ビル・スカルスガルド)が事態の収束に乗り出す。
日本の大阪コンチネンタルにて旧友のシマヅ(真田広之)を頼ったジョン・ウィックだったが、侯爵はジョンの殺害のために、殺し屋部隊を派遣。
さらに、盲目だがジョンと並ぶ腕をもつ最強の元殺し屋ケイン(ドニー・イェン)をも送り出し・・・。

[情報]
ガン・フーと称される、銃撃と格闘技を組み合わせた戦技を駆使する、本格アクション映画シリーズとして、キアヌ・リーヴスの新たなる代表作となった、ジョン・ウィックシリーズの4作目にして、いったんの「コンセクエンス」(帰結)というべき、結びの作品。

監督のチャド・スタエルスキは、シリーズを重ねるにつれて、独自のスタイリッシュでアート的な映像を進化させてみせた。
今作でも、独特の色合いや背景美術が満載されている。

今作は、169分とシリーズ中最長。
このシリーズらしく、上映時間のほとんどを次から次とアイデア豊富に繰り出される戦闘アクションシーンが占める。

今作では、いよいよアジア・アクション界のスターである、ドニー・イェン(イップマンなど)や真田広之(ラストサムライなど)をキャストに起用。
特にドニー・イェンは、現状の香港アクション俳優のトップ中のトップ、とあって、注目を集めた。

本日は日本公開初日から4日目。
すでにアメリカでは3月に公開されている。
1億ドルの制作費で作られ、現時点で4億3000万ドル超のヒットとなった。
今作は、批評家、一般層の両方から、極めて広く高い支持を受けている。

[見どころ]
169分の長尺だが、気にならず!!
キアヌが、ドニー・イェンが、真田広之が繰り出す、キレキレの、バトルに次ぐバトル!!!
特にドニー・イェン。盲目のアクションが凄すぎて、完全にキアヌを食っている。
アートを思わせる色使いと、外連味のある映像美!!
アクションシーンをカット割せずに撮るカメラワークが標準装備のため、全てのアクションシーンにおいて、何が起こっているのかが非常にわかりやすい。
アクションのアイデアも非常に豊富で、長尺の全編においてアクションシーンが続くにもかかわらず、飽きることがない。
日本刀!!ヌンチャク!ダンスフロア!
圧巻はパリでの膨大な自動車が走り抜ける中の、アクション!!
相変わらず、独自の殺し屋ワールドのマンガ的な面白さ!!

[感想]
これは、シリーズ最高傑作。
格闘メインのアクション映画の中でも、歴史的傑作、と言えるかもしれない。

何しろ、アクションの量と質に、まずは圧倒される。
このシリーズは、もともと監督のスタエルスキの嗜好か、銃撃+格闘アクションを無駄にカットを割らずに、きっかり、くっきり、はっきり映す、という傾向を持っていた。
観客は、何が起こっているのか、非常にわかりやすい。
他方、その結果、ごまかしは効かない。
俳優のアクションの振り付けは、極めて高度なものが求められていた、はずである。
それが、複数の演者が闘うとなると、尚更だ。
今作では、3対1とか、2対1の戦闘を、繰り返し、繰り返し、延々とやる。
それも単純な格闘ではなく、銃撃と格闘を組み合わせて。
全身を防弾スーツに身を包み、銃弾が単純に当たっても死なない、というのは、このシリーズの一つの発明だろう。
時には、車の衝突やら障害物やらを交えて、手を替え品を替え、工夫に工夫を凝らす。
それが、169分のほとんどを占める。
その想像も及ばない、労力!!!
常軌を逸している、としか思えない。

普通は、ここまで延々とアクションをやると、ダレるはずなのだ。
アクションシーンの間は、ストーリーは進まないのが普通だから。
しかし、このシリーズでは、特に今作では、停滞感はほとんどない。
それは、アクション一つ一つのディテールや、美術、建築、色彩、照明、音楽などなどが、極めて雄弁だからだ。
大阪、ベルリン、パリの、それぞれの誇張された異国情緒!!!
赤と緑が多用された、ネオン使い!!

キャラクターの立ちっぷりや、世界観の独自性もまた、今作の大きな魅力だ。
相変わらずのヘンテコな殺し屋ワールドの掟は、ワクワクさせられる。
決闘の条件の決め方!!!

とにかく、全てにおいて唯一無二で、比類ない今作なのだが、中でも最も素晴らしい点を挙げるなら、準主役にドニー・イェンを起用した点にあろう。
そのアクションの切れ味の鋭さは、流石は現代随一のカンフースター。
座頭市を想起させる盲目の殺し屋は、ドニーがローグワンで演じた盲目の戦士の変奏だが、アクションを独特のものにしていて、目が離せない。
これまでのシリーズ三作で、前作のメインヴィランであるゼロも含めて、ジョン・ウィックと対等の力を持つ敵は存在していなかった。
しかし、ドニー・イェンならば!!!
そのアクションで語る説得力!!

作中の日本にも言及しておこう。
完全なるファンタジー・ジャパン!!
ただし、道頓堀は除く!!
ブレットトレインのナンチャッテ日本も良かったが、今作はさらに妄想が振り切っていて、より楽しい。
何より、日本人役の役者が、ちゃんとネイティブな日本語を話すのが、心地よい。
真田さんもリナ・サワヤマさんも、説得力ある演技とアクションで、他の面々に負けていなかった、と思う。

結論として、今作は、アクション映画の歴史上、特異な地位を築く、立派な傑作なのではなかろうか。

[テーマ考]
今作は、アクションと世界観とケレン味を煮詰めた作品であり、何らかのテーマやメッセージ性を必要としない作品のようにも思える。
やりたいアクションのアイデアありきで、ストーリーは二の次、という節もある。

とはいえ、一定の「結末」を示す今作では、前3作と比較して、テーマらしきものがより窺えるようにも思える。
それは、例えば、生きがいとは何か、ということかもしれない。
あるいは、人は、何のために生きるのか。

ジョン・ウィック、ケイン、侯爵、Mr.ノーバディ、ニューヨークコンチネンタルのマネージャー、シマヅ、その娘など、キャラクターの配置と言動は、このテーマに沿って理解できるかもしれない。
特に、ジョンとケインの2人の対比と結末は、雄弁なように思う。

無論、製作上のテーマは別に観念できる。
スタエルスキ監督とキアヌは、彼らの考える、最高のアクション映画を表現しようとしたはずだ。
そして、その試みはおそらく、成功している。

[まとめ]
シリーズの到達点にして、アクション映画の歴史を更新する傑作。

色々と好きなシーンがあって、絞り込むのは難しい。
キアヌの日本語セリフ!!
ドニーのアラーム装置!!
いきなり始めるポーカー!!
階段をゴロンゴロン転がるところ!!
満身創痍で頑張るキアヌ!!
とにかく、ジョン・ウィックは、最高!ってことだ。