緋里阿純

ジョン・ウィック:コンセクエンスの緋里阿純のネタバレレビュー・内容・結末

4.8

このレビューはネタバレを含みます

・キアヌ・リーヴス主演による2014年(日本公開は15年)から続く『ジョン・ウィック』シリーズの第4作目。彼にとって、既に『マトリックス』シリーズと並ぶ一大人気シリーズに。
回を重ねる毎に更新されていくアクションと上映時間。第1作目は101分というコンパクトさだったのに対し、今作は何と169分という長尺。

日本版の副題にもある【コンセクエンス(consequence)=結果(作中では“報い”の意として度々登場)】という言葉の通り、今作では、ジョン・ウィックとこれまで彼に関わってきた者達、今作で新たに彼に関わる者達それぞれの行いに、様々な報いが生じていく。シリーズの集大成とも言える作品。

・前作のラストで、キングと共に主席連合への復讐を誓ったジョンは、早速首長への復讐を果たす。しかし、ジョン・ウィック抹殺を条件に、連合の権限を一手に引き受け、新たに主席連合の首領に就任したグラモン侯爵の策略によって、ニューヨークのコンチネンタルホテルを経営するウィンストンは支配人の権限を剥奪、相棒のシャロンは見せしめとして射殺されてしまう。大阪コンチネンタルホテルに潜伏しているジョンを抹殺する為、侯爵は彼の旧友であるケインを呼び戻し、部下達と共に向かわせる。

・今作は何と言っても、ドニー・イェン演じるこのケインというキャラクターが素晴らしい。娘を愛する盲目の達人という、決して字面では斬新さが伺えない設定だが、スクリーンに映し出される彼の人間性と戦闘スキルの数々に唸らされる。
杖を用い、足元をフラつかせながら周囲の状況を確認する危なげな様子に、観客は「オイオイ、大丈夫かよ?」と、一瞬不安になる。しかし、一度戦闘が始まれば、その磨き上げられた抜群の戦闘スキルで、襲い来る敵を次々と薙ぎ倒してゆく。特に、大阪コンチネンタルホテルの調理場での戦闘シーンが良い。壁や調理具にセンサーを取り付け、敵が通過すると音が鳴るというシンプルなトラップだが、音のした方向に適切な攻撃を加えて敵を倒していく様子が面白い。

また、あくまで娘の命を人質に取られているから侯爵の命令に従っているのであって、無闇矢鱈と殺生はしない様子(同じく旧友であるシマヅや彼の部下達への配慮等)が達人感を漂わせる。
極めつけは、ジョンを見捨てて決闘場所に向かえば確実に娘が助かるにも関わらず、刺客に襲われ孤軍奮闘する彼に手を差し伸べ、共に決闘場所である寺院に続く階段を上がっていく姿。「良き友であり、同時に最大の敵でもある彼は、あくまで正々堂々と決闘で倒す」という、ケインの武人としての誇り高き精神に、思わずウルッとさせられた。

そんな彼にすら、エンドロール後に正に彼らの生きた「殺しの世界」の“報い”がやって来るのだから恐ろしい。
クライマックスの決闘シーンで、ジョンと交わした「(ジョン)死にしがみつく者は、生き。(ケイン)生にしがみつく者は、死ぬ。」という台詞を体現している。殺しの世界から解放されたと思ってしまった彼は、間違いなくあの瞬間、生にしがみついていたのだから…。

・ビル・スカルスガルド演じるグラモン侯爵も、ステレオタイプながら絶妙な“権力に溺れるボンクラ”感が見ていて楽しい。よく主席連合の連中は、彼に権限を与えたなと思う。あるいは、クライマックスの決闘シーンで「実はメチャクチャ強かった!」というサプライズでもあるかと思ったが、そんな事はなかった(笑)
その徹底した小物っぷりが、演じるビル・スカルスガルドの演技もあって愛しささえ抱かせるのだから素晴らしい。

・今作は、ビジュアル表現の数々にも非常に力が入っていた。キューブリックを彷彿とさせる左右対称に拘って撮られているシーンは勿論、アクション映画であると同時に、象徴的なシーンの一つ一つが絵画の如く美しいのだ。

大阪コンチネンタルホテルでの死闘は、桜が印象的なホテルの外観、鎧甲冑や日本画をイメージしたステンドグラスの飾られた修練場、刀・弓矢・手裏剣、果てには力士の用心棒と、ハリウッドならではの“間違った日本感”全開のビジュアルが、日本人としては美しいと同時にクスリとさせられる。修練場でのアクションは、前作のクライマックスの戦闘シーンと重なる印象があるのもまた面白い。

他にも、侯爵に決闘の果たし状を渡しに行くウィンストンの背景に飾られている名画の数々。
背景にエッフェル塔を挟んでの、決闘の条件を話し合うカードゲーム。
夜明けの朝日が差し込む寺院での決闘シーン。
これらを劇場の大スクリーンで存分に体験出来るのだから、非常に贅沢。

・アクションに関しても、既に4作目であるにも関わらず、尚も新しい引き出しを提示し続けてくれて、観ていて飽きない。
寺院に向かうジョンに襲い掛かる刺客達との凱旋門でのバトルや、改装中の建物内での、大スクリーンで観ているにも関わらず、どこかミニチュアを真上から眺めている感覚に陥るワンカットガンアクション。寺院に続く階段での、倒しても倒しても次々と刺客が現れるゲームステージのようなバトル。

また、ジョンの確実なヘッドショットによるトドメをシリーズ通して最後まで貫き通す姿勢も非常に好感が持てる。

・今作のラストで、遂に伝説の殺し屋、無敵の男、ブギーマン、ババヤガと、多くの尊称(愛称)で表現されてきたジョン・ウィックも、遂に命を落とす。数え切れない殺しを経てきた彼も、遂にその“報い”を受ける時が来たのだ。今際の際で脳裏に浮かべた“愛する妻”の元へ行けたのかは、墓前でウィンストンが語るように「分からない」。
というか、本当にこれで彼が死んだのかすら、実際の所は分からない。だが、エンドロール後に我々観客に突き付けられたクールなラストが示すように、例え生きていたとしても、「一度でも殺しの世界に足を踏み入れた者に、安息はない」という事に変わりはないのだろう。

個人的には、今後スピンオフが控えてはいるが、ここで一度シリーズを畳んだのは英断であったと思う。ジョン・ウィックの紡いだ物語の集大成として、その結末として、本作は非常に満足度の高い景色を魅せてくれた。

ところで、あの『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のグルートみたいなキャラクターは、一体何だったのだろう…?(笑)
緋里阿純

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