しの

哀愁しんでれらのしののレビュー・感想・評価

哀愁しんでれら(2021年製作の映画)
3.0
「御伽噺だから何から何まで設計してやったぜ」感はあるのだが、言ってしまえばそれだけのことでしかなくて、なんか虚しい。ただ、終盤で娘を学校に行かせようと完全にイカれた説得をするシーンはギャグでしかなくて爆笑した。

序盤の「シンデレラストーリー」はただのセッティングでしかなく、誰も彼もクサい台詞を読んでるだけなので、これは虚飾の演出を狙ってるんだろうな、どこかで反転するんだろうなと期待していたら、結局この演出が最後までずっと続く。じゃあ自分には関係ない話だな、で終わってしまう。

この手の寓話は(それがリアルな問題を扱う寓話であればあるほど)、油断して見ていた観客に「うわ、これ現実の自分たちの話だ」と悟らせ戦慄させる瞬間が必要だと思う。本作の場合、観客も娘をバイアスで見てた! という仕掛けでそれを狙っているのだろうが、これが成立してないので普遍性を持たない。単に「頭のおかしい一家の話」になってしまう。

本当なら、「娘は最初からずっと主人公を憎んでなかった。拗ねてただけ」とも読めるように作らないといけないのに、結婚した途端に娘があんな態度をとる時点でまずおかしい。せめて秘密をバラされるくだりがあってからにすべきだし、それでも筆箱や弁当の件は無理がある。だから連動して終盤の展開も響かない。

となると残された道は、マジで「頭のおかしな一家」に完膚なきまでに主人公が吸収される(いわばアリ・アスター作品的な)ホラーにするしかないが、そう観ようとすると今度はめちゃくちゃ安っぽく感じてしまう。いずれにせよ「設計」という目的が先行してるから成立しないのだろう。

もちろん、「ああはなるまいと思ってたアイツに自分が……」という構図の連発とか、攻めた美術や色彩とか、あのアバンからの突き抜けたオチとか、うまく設計されているのだが、それだけ。本作が一番伝えるべき「良き(母)親とは」のテーマが、そこまで実感ある内容として響かなかった。
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