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あのこは貴族のあのレビュー・感想・評価

あのこは貴族(2021年製作の映画)
4.8
配給 バンダイナムコ 東京テアトル

山内マリコの独特のキツさをとって柔らかく・でも良いところはちゃんと入れて いまっぽくアップデートされた最高の映画化
タイトルインでお見合い写真用の無理して頑張っている笑顔にしているところでもうこの映画は大丈夫だと確信
未婚と既婚(既婚の中でもおそらく子供の有無で分かれていくんだろうな)で線引きされる女性たちのアフタヌーンティーの引きつった笑い、ああいうの自分もやったことあるなぁと既視感のオンパレード
人って知らぬ間にマウントを取りたがる生き物だと思っていて、特に同性で集まったときそれが多い気がする
(わたしも毎年年末に中学の同級生4人で集まっているけど、みんな結婚していないので謎の安心感みたいなのがある...)
女たちが逸子不在のところで隠れて話をしている不快感とかもめちゃくちゃ経験したことあって嫌だった 群れるとみんなすぐそこにいない人の話するものね

全編に渡ってヒリヒリするような描写や脚本が多く、山内マリコの原作はそれがけっこうどぎつい感じがするんだけれど監督は女性の痛みがわかる人なんだろうなと思った
概ね原作に沿って作られているけれど、原作ではノートは内部生を通して返された設定だし、結婚式のシーンが決定的に違うのと、あと高良健吾を完全に悪者にしないのが良かったな

原作では華子が自分で結婚後美紀に相談しにいくんだけど、映画ではたまたま見かけた設定になっていて(しかもタクシーの中から)そこから飛び出していくということが彼女が自分の世界からの脱却を試みたことでもあり巧い演出だった
対して自転車に乗る二人の演出も最高でめっちゃ泣いてしまった 映画における二人乗り自転車のシーンって絶対良いよね...

ブランドバッグってわりとアイデンティティが出るものだと思っていて、お金持ちの華子はシャネル、エルメスのバーキンなど超ハイブランド、美紀はヴィヴィアンみたいに手の届くわかりやすいブランド、大学入学の田舎者はコーチ、みたいに使い分けられているのが面白い
大学私立だったから入ったらみんななぜかブランドのバッグとか靴で(なんなんだよお前らはと思っていた)しかもバイトは家からお金出るんでしてませんでも一人暮らししてますみたいな先輩もいてああなんなんだろあの階級社会は
スニーカー履いていって浮きまくったこと思い出した...しかも働いてからその反動か中堅クラスのブランドのバッグ買ったよ自分のお金で(しかしいらなくなってzozoに売ったという笑)

美紀の部屋に学生時代に持っていたトートがまだ大事に使われてあるように掛かっていて、彼女の育ってきた道が示されているよう
華子はアニエスベーのカーディガンやフルトンの傘を使っていたけどそこは違うのでは..?という感じもした でも最後フルトンでなかったのでやはり高級傘=フルトンなのかな foxアンブレラとかにしたら良かったのに(服にはうるさいオタク)

男性のスーツも然り、先生の紹介のコミュ障みたいな男性はサイズ感が絶妙にでかすぎるスーツ(ああいう人いるよな笑)
高良健吾の綺麗にまとめたのと議員になってからのノーネクタイの感じとか 使い分けが巧い

ベランダでアイスを食べるシーン、
生きてると良いことも悪いこともあるけどそれを話せる人がいるってほんと大事
常々わたしも思う
あれは原作にはない言葉で監督最高だなぁと思った
しかもお互いに食べているアイスと服の色が反対になっていて、白のスーツを着ている美紀が茶色のアイス食べていて、茶のワンピース着ている華子が白いアイス食べているんだよ 最高よ まさにあれこそが邂逅で、お互いの存在を東京という場所で確認しあうというな...最高かよ最高かよ最高最高最高

設定的に古臭く感じる部分や無理のあるのは全部原作にある要素なので映画としては100点だと思う
門脇麦ちゃん死ぬほど演技上手いので水原希子がもうすこし対等に演じられるくらい上手ければなと思ったが役にはとても合ってるので良いかなという感じ(すみません上から笑
華子と美紀が初めて会うシーンでも雛人形のことでふたりと美紀の世界が異なるのがサラッと描かれるのに対し(あれは原作にもある)それをあまり美紀が感じとるように見えなかったのが残念

映画オリジナルと言えば 恭一郎と華子が初めて出会った日に観てねと言っていたのが『オズと魔法使』なのだが、あの作品は主人公ドロシーが「トト、ここはカンザスじゃないみたい」と言って夢の異世界へ迷い込み「やっぱりお家が一番ね」と言って終わる=女は家に閉じこもっておけという価値観が出た古い映画で、でも華子はお家がいちばんとは言わないのがポイント
タクシーに乗っていた華子が自らの足で歩んでいき過去の自分とさよならするように手を振るラストカットは清々しさのある幕切れで素晴らしかった

石橋静河さん、バイオリンの持ち方に違和感あったがめちゃくちゃ練習したんだろうなというのが伝わってきたし、それ以外でも彼女のシーンは全て良かったので優勝
山中さんやお姉さんも良い役者さん
ああいう人たちがいるからこそ作品が良くなる

おかわりしたいな〜

ここ最近の邦画の中でもかなりレベルの高い作品が出てきたと思う 参りました
結婚が全てではないというのはこの映画でも嫌というほどわかるけど わたしは汚い居酒屋も行きたいしアフタヌーンティーにも行くしあんな姑いないし働いてるしでも結婚してないんだよな〜〜〜!と悲しくなったのがこの映画最大のオチです
あ