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アナザーラウンドのGreenTのレビュー・感想・評価

アナザーラウンド(2020年製作の映画)
2.0
マーティン(マッツ・ミケルセン)は、デンマークの高校に相当するジムナジウムで歴史を教えている先生。奥さんとも子供たちともすれ違い生活で家庭は冷え冷えしているし、学校では「使えない教師」扱いをされている。

いや〜、学校の先生にはなりたくないなあと昔から思っていたのですが、この映画を観ると本当になりたくないです。ある朝教室に入ったら、生徒の親たちが来ている。で、子供たちがマーティンに対して文句を言ったからと、親たちに詰め寄られる。

最近って、教育に関して親も子供も自分のすべきことはおざなりにして、全て先生に責任転嫁していると思う。マーティンとしては、スマホばかり見て子供の方がヤル気がなく、しかもデンマークでは若い子の飲酒癖がすごいらしいと示唆される。

どうやらデンマークのジムナジウムっていうのは卒業試験に受からないと卒業できないらしく、それでマーティンは親に迫られたようなのだが、同じ学校の先生たちも、生徒のヤル気がないのを憂いているらしい。同僚の誕生日にレストランに集まった、歴史教師のマーティンを始めとして、体育の先生、音楽の先生、あともう1人はなんの先生だか忘れたけど、4人は仲良しのよう。

みんな40歳も過ぎて、教育の現実に失望し、家庭もギスギスしている、自分もつまらない人間になったみたいな、いわゆるミッドライフ・クライシスになっているのだが、とあるノルウェーの学者が「人間は元々、0.05ミリ血中アルコールが低すぎる」という仮説を立てているという話になる。どういうことかと言うと、あと0.05ミリ血中アルコール濃度が上がれば、人間はリラックスでき、自分に自信が持て、楽しく生きられるということらしい。

「人間の血液って、元々アルコール成分を含んでいるの?」と不思議に思ったが、「一日の終わりに飲酒して、その日にあった辛いことを忘れる」のような「逃避」のための飲酒ではなく、「コントロールされた環境の中で、日中のパフォーマンスを上げるためにアルコールを摂取する」というのは、本当に効くんだったら私も試したい!と思った。

で、もちろん4人のパフォーマンスは上がり、マーティンは人気の先生になり、体育の先生はシャイで落ちこぼれの生徒を救うのですが・・・・。

原作は監督・脚本のトマス・ヴィンターベアの戯曲で、それにヴィンターベア監督の娘・アイダがデンマークの若者の飲酒文化の話を盛り込んで、最初は「世界の歴史はアルコールがなかったら全く違うものになっていたという仮説をベースに、アルコールを賛美する」という話だったのだが、撮影が始まって数日後、マッツ・ミケルセンの娘役を演じるハズだったアイダが交通事故で亡くなってしまい、それを受けて「飲酒だけでなく、人生に目覚めること」をテーマに書き換えられたそうです。

それは映画に悪い意味で反映されていて、この映画、飲酒は悪いことじゃないんだよ!って言いたいのか、定説の「アルコールは人生を破綻させる」ってことを言いたいのか、どっちつかずで見ていてすごい混乱する。

英語のタイトル “Another Round” は「もう一杯!」と「人生の再出発」をかけてあり、酒を飲むことがポジティブに聞こえるんだけど、原題の “Druk” は「飲酒が止められない状態、過飲」って意味で、相反しているし。

主演のマッツ・ミケルセンが絶賛されているけど、与えられた役柄の中で健闘しているだけで、キャラクター自体がそんなに良くないのでそれほどのものなのかと思ったし、2021年のアカデミー賞のベスト・ディレクターと外国語映画賞にノミネートも、『パラサイト』と一緒で「アカデミーの多様性」のためのノミネート?という気がしないでもない。

ネタバレはコメント欄で!
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