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FLEE フリーのchunkymonkeyのレビュー・感想・評価

FLEE フリー(2021年製作の映画)
5.0
2022年初劇場鑑賞でいきなりマイベスト級。アフガン難民を描いたドキュメンタリーは多数ありますが、このドキュメンタリー・アニメは別格でアニメ・漫画を好まない私の心も鷲掴みに!オスカー各部門で有力候補のドライブ・マイ・カー、ミラベルと魔法だらけの家、サマー・オブ・ソウルのライバルになることが予想されています。

アフガン難民としてデンマークで暮らす36歳のアミン(偽名)は長年の恋人に連れられ一緒に暮らす郊外の新居候補を訪れます。ところがキャリアが最優先と語るアミンは密かにアメリカでポスドクのポジションに就くつもりでいます。家族のことも自分のことも決して誰にも語らず壁をつくって生きるアミン。20年来の友人である映画監督ラスムセンはそのことを訝しく思っており数年前からドキュメンタリー製作を持ちかけていましたが、ある日アミンは痛ましい自分の過去と家族についてその重い口をついに開きます。

他人に心を開けず不器用なアミン。万人が共感できるような人生の岐路に際し自分の過去とアイデンティティに向き合っていく主人公を描いたこの映画はセラピー・セッション的な傾向が強い作品です。彼の心に触れる親密な体験によって観客はアミンが自分の友人のように感じられます。だからこそ観た者はそれぞれじゃあ自分の国では難民・移民、マイノリティの人々とどう向き合っているのか、深い反省をもって振りかえざるを得ません。

アフガン難民の経験してきたことはあまりにも壮絶であるがためにどうしても知らない世界で起こっていることのように感じてしまいますが、この映画の美しい製作アプローチは観客が主人公とともに過去と向き合う心の旅を共にすることを可能にしています。あまりにも愛着が沸くのでぜひ顔を見たくなる。なのにアニメーション。

アニメーションにせざるを得なかった理由は彼の隠された過去と話を聞き出す際の取材手法にあります。ただ結果論としてアニメーションにしたことは大正解。恥ずかしい時に笑ったりするのがわかりやすい例ですが人は感情を表情で誤魔化します。アニメーションで顔の表情が明確でないことがこの表情による誤魔化しを排除し、かえって感情がストレートに伝わってきています。

「離れていても家族...」と言うは易しですが、アミンのお兄ちゃんの家族愛は本当にすごい。アミンが兄弟たちに告白した際「ずっと知ってたよ」というよくある場面はその前の言動からそれ嘘じゃんというところまでセットで多くの人が実際経験する「あるある」です。が、その際のお兄ちゃんの行動は全然あるあるじゃない。早くも今年の最高お兄ちゃん賞決定。だからこそアミンにとって犠牲を払ってきた家族の呪縛という面もあるのですが。

物語のまとめ方はこの手の難民ドキュメンタリーとは一線を画しており、どちらかというと青春映画のような方向に寄っています。なので重いドキュメンタリーが苦手な方でも大丈夫です。が、紛れもなくアミンは実在の人物。この映画が高く評価されていること、勇気を出して話したストーリーに人々が共感していることをアミンはとても喜んでいるそうです。そういった意味でもぜひお勧めしたい映画です。

予告編:https://youtu.be/wgj7DUEtfg0
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