Nさん

FLEE フリーのNさんのネタバレレビュー・内容・結末

FLEE フリー(2021年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

幼少期のアミンがお姉さんの服を着て音楽聞きながら走り回っているときは、まだ自由な環境に見えた。

アミンのお兄さんたちが逃げて逃げて過ごしたように、「アフガニスタンの若者は戦争に行きたがらない」ようだった。
自由を奪われて捨て駒になり、苦しんで早死にするのは絶対嫌だから本当に当たり前のことなんだけど、自分があまりにも無知すぎて、戦争地域の人も自分と同じようなことを考えていたんだって思い至らなくて、このシーンを意外に思ってしまった。

アミンたちは、何も悪いことをしていない。
でもずっと逃げて逃げていないと生きることができない状況に置かれてた。自分の意思とは関係なく最初からそういう環境だった。

故郷にいたら人生が破壊されてしまうから、逃げざるを得ないことが悲しかった。
故郷を捨てたくて捨ててるわけではない。
不法移民になりたくて、他の国に侵入するわけではない。

ロシアの警察が腐敗している様子が描かれていて、今と変わらない…?と思った。
車で暴行されたと思われる女性のシーンは胸が痛んだ。今もこういうことが起きているんだとと思うとゾッとして死にそうになる。
アミンが立場上無力過ぎて何もできなかったことをずっと覚えているのもキツイ経験になったんだと思う。

モスクワも安全な場所ではなかったけど、ロシアしか「観光」ビザを発行してくれなかったから、ロシアに行くしかなかったってことか。
ソ連崩壊直後、混乱の最中だったらしい。

年老いた女性が歩けなくなっていたのがすごくつらかった。
船の甲板の下に隠れて逃げて電気が消えてしまったとき、見てるだけで不安になり過ぎて泣いてしまった。真っ暗な冬の荒れた海で人間がギチギチに詰め込まれてて、苦しい圧迫感がすごかった。
助けてもらえることもなく見せ物にされ、監禁されたエストニア?の施設は、本当に汚くて閉塞感でいっぱいだった。
助けてほしい一心で命懸けでここまで来たんだよと思った。

スウェーデンのお兄さんは、アミンがゲイと気づいていたならしつこく女女女と言うなよ!と思ってしまった。
確かめたかったけど、方法がわからず距離をはかりかねたのか?ただでさえ居場所が不安定なんだから、これ以上アミンを追い詰めるな!と思った。
お金握らせてゲイクラブに連れて行ったのは、粋だった。

行き先を告げずに連れて行ったから、更生施設でも行くのかと思ってめちゃくちゃヒヤヒヤした。
直前にお姉さんの「女性との経験はあるの?」というセリフから、もしかして風俗店的なところへ無理やり連れて行った?とかも考えてヒヤヒヤした。
経験あってもなくても本人にはわかるんだよ!!

セクシュアルマイノリティであることを知られたら、家族の中に居られなくなるかもしれない、居場所を失うかもしれないと恐怖を抱くのは当然だと思う。
アミンの境遇を考えると何倍も何倍も怖いことだったと思う。
その中で自分の人生切り開いていった勇気をとても尊敬する。

アミンは、自分に正直でいたかったんだと思う。
家族にも嘘をついて切り抜けることもできたはずだけど、そうはしなかった。
これは想像だけど、難民としてデンマークで暮らす中で、自分のセクシュアリティが何かを知ることができたから、話すこともできるようになったのかもしれない。

監督となった親友の支えもあり、キャスパーとの関係性を良い方向へと舵を切れたのもアミンの真っ直ぐな素晴らしさだと思った。
逃げて逃げて生きてきた人生は、確実に精神に影響を及ぼす。周りの人との関係にも…。
どうか幸せな道を歩んで行ってほしい。

「アフガニスタンに同性愛者はいない」という表現がすごかった。居てはならないって意味か。
人類の数パーセントは、地球上どこの国でも必ずいるんだわって思うけど、アイデンティティを表す言葉も持たない中では、存在すること自体ができない。

自分の与えられている幸せに目が向いた。

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追記

映画を見てすぐは、難民の過酷さで頭がいっぱいになっていた。
少し経って思い返すと、車の中で出会った青年とのシーンがものすごく素敵で、印象に残っていた。

少し年上で、気さくで笑わせてくれる彼にアミンは憧れを抱いた。
ちょっとの間だったけど、あの時のトキメキがアミンを支えてくれたと思う。
自分が何者なのかを教えてもらえたきっかけでもあったと思う。

一緒に音楽を聞いた時間は、自分を消して別人になりすまし国境を越える緊張感MAXな状況の中で、ホッとできる瞬間だったはずだ。
素敵な人と過ごす時間は、あまり得られてこなかったであろう喜びの感情があったと思う。
ネックレスつけてみる?って言うのも良かった。あれは宝物になる。

このシーンが一番好きで、記憶に残った。
Nさん

Nさん