サマセット7

スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバースのサマセット7のレビュー・感想・評価

4.3
SONYの劇場用アニメーション「スパイダーバース」シリーズの第2作目。
製作・共同脚本に、前作同様「レゴムービー」「21ジャンプストリート」のクリス・ミラーとフィル・ロードのコンビ。
監督や共同脚本に、「ソウルフルワールド」などで実績のあるチームを結集している。

[あらすじ]
多元宇宙のスパイダーマンたちが結集し、世界の危機を救った前作後、自らの世界に戻ったグエン・スレイシー/スパイダーウーマンは、どこからか現れたバルチャーという鳥型ヴィランとの戦闘中に、複数の多元宇宙のスパイダーマンたちの助太刀を得る。
他方、前作の舞台となった世界で、15歳にしてスパイダーマンとなったマイルズ・モラレスは、ヒーローとしての秘密を愛する両親に隠す生活に、悩みを抱えていた。
そんな中異形のヴィラン、スポットが現れ、さらに永遠に離れ離れになったはずのグエンまでもマイルスの目の前に現れるが…。

[情報]
スパイダーバースシリーズの第二作目。
本日は日本での劇場公開後7日目である。

スパイダーマンは、アメコミの老舗マーベルコミックの言わずと知れた看板ヒーローである。
コミック初出は1962年で、その後、世界各国でローカライズされ、漫画化、映像化されてきた。
DCコミックのスーパーマン、バットマンと並び、世界で最も有名なアメコミヒーローであろう。
日本でも翻案されて男組やサンクチュアリの池上遼一が漫画化、1978年には特撮テレビドラマシリーズ化されている。

アメリカにおいても、コミック、映画両方で何度もリブートされている。
特に劇場版のトビー・マグワイヤ版三部作、アンドリュー・ガーフィールド版アメイジング・スパイダーマンシリーズ二部作、トム・ホランド版MCUスパイダーマン三部作は著名だろう。

ほぼ全てのシリーズに共通する「お約束」として、クモに噛まれて特殊能力を得たクモ人間であること、ニューヨークを主な活動場所とし、人命救助と軽口を得意とする「親愛なる隣人」であること、そして、必ず作中で愛する人を亡くす、という宿命を背負っていること、といった特徴を持つ。

前作の「スパイダーマン/スパイダーバース」は、コミックと3Dアニメーションを融合させた革新的映像に、多元宇宙のスパイダーマンたちの斬新な表現、ヒップホップを多用した音楽などに、高い評価を集めて、アカデミー賞長編アニメ賞など、賞を総なめした。
一部のファンからは、史上最高のスパイダーマン映画、との声も聞こえた。

今作では、前作の好評を受けて、予算を拡大。
世界中のアニメーター1000人を結集して、前作を超える映像革命に挑んだ、とされる。
なるほど、今作の映像表現は、革新的だった前作をさらにアップデートしたものになっている。

今作は製作時から、前後編の前編であることが明言されており、今作では物語は完結しない。

今作は1億ドルの予算で製作され、アメリカ公開から20日ほど経過した現時点で、世界興収5億ドルを超えている。この成績はすでに前作を1億ドルほど超えており、大ヒット、と言えるだろう。
今作は前作同様、批評家、一般層両方から、絶賛に近い高い評価を集めている。

[見どころ]
前作からさらに進化した、映像表現の最新形!!!
前作では一つの世界に様々なキャラクターが集結したが、今作の舞台は一つじゃない!
世界ごとに異なるアニメーション表現!!!
こんなの見たことない!!!
そして、多元宇宙から集結した200人のスパイダーマン!!!
全員アニメのタッチが違う!!!
どうなってんのー!!!!
「スパイダーマンの宿命」に切り込む、ストーリー!!
これぞ、最高のスパイダーマン映画だ!!

[感想]
文字通り、震えるほどのアニメーション表現の連打、連打、連打!!!
最高ー!!!

いきなり、グエンの世界から始まるわけだが、その世界観の表現にまずやられる。
水彩画っぽい、アートアニメのような表現手法。
なるほど、今回は、キャラクターだけじゃなく、世界観の表現も、世界ごとに変えるわけですかー???!!!とテンションが上がる。
この表現がまた、グエンの哀しくも切ない心象風景と完全に一致しているのが、また凄い。

期待通り、今作では複数の世界にキャラクターが移動して物語が進むのだが、それぞれタッチや表現が変わっていて、感動させられる。

多元宇宙のスパイダーマンごとに表現手法が違うのも前作同様。
妊娠しているスパイダーマン!スパニッシュなスパイダーマン!インドなスパイダーマン!そして、パンクなスパイダーマン!!!
みんな違って、みんな良い!!!

コミックを彷彿とさせる止め絵の威力や動きの躍動感、音楽のキマリ度も前作と勝るとも劣らず。
映像に浸るだけで、溢れ出る多幸感!!!

ストーリーは、前作よりさらに、「スパイダーマンのお約束」の核心に迫ったものとなっている。
この話が書けるのは、スパイダーマンのこれまでの歴史の積み重ねがあってこそだろう。

縦軸となるのは、ヒロイン・グエンと主人公マイルズの再会。
横軸となるのは、秘密を抱えるマイルズと両親との揺れ動く関係性だ。
特にマイルズと両親のドラマは、作中かなりの時間を割いてじっくりと描かれており、その結果、後半の展開の重みを増している。

複数の有名ヴィランが登場した前作から一変、今作のヴィランは、スポット、という新しいキャラクターのみ。
だが、不足感がないのは、今作でマイルズが対峙するのは、ヴィランよりもむしろ、多元世界のスパイダーマンたちだからだ。
その総数200人以上!!
前代未聞のアニメ表現!!

今作は前後編の前編であり、終わりかたは、「ここで終わるんかーい!!!」というもの。
物語としての評価は、次作に持ち越しだろう。

140分という、長編アニメとしては規格外の長さだが、気にならなかった。
途中ストーリー的には停滞する場面もあるが、何しろアニメーションと音楽がいいので、没入させられてしまう。

傑作!!!
次作も絶対観る!!!

[テーマ考]
今作は、まず、普遍的な親子の絆をテーマとしている。
マイルズ、グエンをはじめ、複数のスパイダーマンのエピソードで親と子の絆の物語が語られており、象徴的である。

また、今作は「運命」に対する超克を描いた作品でもある。
今作は、後半、マイルズがスパイダーマンのお約束をひっくり返さんと奮闘する展開になる。
その結果、200人超のスパイダーマンと戦う羽目になるわけだ(この辺は宣伝から事前に明らか)。
作中のマイルズの姿勢は、自分の運命は自分で決めろ、未来は今の行動と判断次第、決まった運命なんてない!!!という、マインドセットに関するメッセージと読める。

各国の多種多様なスパイダーマンの存在は、そのまま、多様性を肯定するメッセージと捉えられる。
ポリコレがどうのこうのという議論関係なく、自然に多様って素晴らしい!!と感じさせるのは、アニメーションの威力であろう。

[まとめ]
このままいくと、21世紀最高のアニメーション三部作になりそうな、革新的アメコミヒーロー・アニメの第二作にして、傑作。

たくさん出てきたスパイダーマンの中で、グエンやマイルズ以外で気に入ったのは、パンク・スパイダーマン!!
インディーっぽい映像表現も含めて、かっこいい!!