YasujiOshiba

アウトポストのYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

アウトポスト(2020年製作の映画)
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アマプラ。アフガニスタンが舞台なのだ。どうして中村哲医師の活動を思わずにいられようか。思えば思うほどハラワタがふつふつしてくる。なぜに地獄への門と天国への門が同じ場所にあるのかと...

アウトポストとはキーティング前哨基地のこと。グーグルマップで「Combat Outpost Keating」を3Dで眺めてみる。なるほど三つ谷底の交差点。よくこんなところに基地を作った。上から丸見え。ここにタリバンの兵たちが攻め込んでくる。2009年10月3日「ガムデシュの戦い」。

事実に基づくと言う。それはそうだろう。けれど一方的な視点。タリバン側からの視点はない。その意味で、かつての西部劇。タリヴァンとはインディアンたちというわけだ。そういえばそんなセリフもあったな。

ともかくも、戦争映画としてはよくできている。手持ちカメラによる没入感がすばらしい。安心しながらの戦争の臨場感。そして、あらゆる戦争映画がそうであるように、どうしても勝者の視点となる。英雄が登場する。苦々しい勝利と英雄。なんども繰り返された戦争物語...

ただアフガニスタンに限っては、米国の勝利は一時的なもの。いまやタリヴァンが政権を奪い返しているのだから、その意味ではこの映画の英雄たちは敗者の英雄たちであり、だからそれは敗者の視点でもある。彼らは敗者なのに、どこまでも英雄として自らを記憶に留めようとする、そんな敗者なのだ。

それにしてもぼくは、アフガンのことをなにもしらない。この映画を見てますますわからなくなった。それはいったいどんな場所で、どんな人が住んでいるのだろうか。かろうじて医師の中村哲(1946-2019)の活躍で垣間見ただけ。医療と治水で暮らしを立て直そうとする戦い。そこには少なくとも生活する人々がいた。

けれど中村医師を殺した銃弾の飛び交うところに生活はない。そんなものからは切り離された兵士が、戦場の日常を繰り返し、死んで英雄になるか生き残って英雄になるかを賭けながら暮らしているだけなのだ。
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