keith中村

パスワード:家のkeith中村のレビュー・感想・評価

パスワード:家(2018年製作の映画)
-
 映画そのものの面白さとは別なんだけれど、本作はコンピュータ関連の描写がかなり正確。というか、決定的な「作劇上の嘘」がほとんど入ってない。
 まずは、そこに好感が持てる。
 
 ほら。あれと同じ。
 私は銃器マニアじゃないので、銃器描写の正確さ・不正確さが全然わからないため、描写の優劣が映画そのものの評価に影響することはないんだけれど、銃器マニアはそこにこだわるじゃないですか。それこそ「『ダーティハリー』は駄目だ」とか言いきっちゃう。
 もちろん、私だってリボルバーなのに7発8発と連射してたら気になる程度のリテラシーはありますけど、あんまり詳しいことはわからない。
 しかし、私にとっては、コンピュータ描写が銃器マニアにとっての銃器のように気になってしまうのです。
 その意味で本作は非常に好感が持てました。

 あ。最初に断っときます。
 ここからしばらく映画本篇と関係ないことを書きますね。
 だから、こんなレビュー読まなくっても大丈夫です!
 
 ってことで、無駄話の続き。
 私はAmazonで観たのですが、この映画の字幕があんまりよくなかった。
 スペイン語なので、専門の字幕翻訳家が少ないためか、翻訳家が映画字幕の基本をわかってらっしゃらない。
 句読点まで使って、ほぼ逐語訳なんです。
 私、英語が聞き取れなかった若い頃は、「俺は文字を読むスピードが速いから、逐語訳の、情報量の多い字幕がほしいなあ」なんて思ったこともあるけれど、実際それを見せられると、情報量が多すぎて、なかなか頭に入ってこない。
 倒置法でしゃべっているところが、そのまま倒置で訳されてたりする。非常に呑み込みづらい。
 改めて、プロパーの字幕翻訳家さんたちの偉大さを思い知りました。
 
 それと、本作では、もちろん訳者さんはスペイン語のプロなんだけど、コンピュータ用語はわからないので、「中間者攻撃」を「MAN IN THE MIDDLE」と翻訳を放棄してそのまま書いちゃってる。
 あと、未来から過去へ切り替えるときに、「サインを変えろ」って字幕が出ましたね。あれは、「正負記号を変えろ」でしょ? 「マイナスにしてみろ」でもいいですね。
 ただ、それを訳者さんの責任にしてはいけない。
 そういう時って、テクニカル・アドバイザーに字幕を監修してもらえばいいだけなんだから。
 そうなってないのは、日本版製作(Amazonなのかな?)の怠慢もしくは予算不足ですね。責められるべきはそちら。
 ただし、ひとつ褒めたい。本作は、Amazonではレターボックス(って、4:3時代の用語? 16:9では何て言うの?)で、スクリーンの上下に黒味があるんです。その下部の黒味に字幕を入れてた。映像に重なってスーパーインポーズされてない。
 こっちのほうが断然いいですね。昔から思ってたんだけど、何で全部これにしないんでしょうね。劇場じゃ無理だけど、円盤や配信ならできるでしょ?
 
 ちなみに、スペイン語でも、コンピュータ用語のほとんどは英単語で話してるから、字幕が不備でも聞き取れました。
 そうすると、それがいちいちかなり正確なんです。
 「中間者攻撃」もそうだけど、アサンジさんのところもすべて事実でしたね。AES256でエンクリプトされてるとか。
 
 ひとつ、かなり大きな嘘は、ARアプリのソースがC++だったところ。int32_t型の変数で、Windowハンドルを取得してるって、完全にMicrosoft Windows用のソースでした。劇中のスマホは、iPhoneかAndroidだろうから、ここが「ダウト!」。
 でも、「ちゃんとリアルなソースにしよう」って意思を感じたんで、好感は持てました。
 ここで、「v8 = 0b11111;」って行が見える。
 バイナリで「31」。31秒先が見える仕様の定義部分ですね。
 これを10進(字幕では「デシマル」だった。プログラマには通じるけど、字幕なら「10進数」でいいんじゃない? あ。テクニカル・アドバイザー不在だから仕方がないのね)に変えるというところが面白い。
 (桁を増やしたらコンパイルが通らない、ってのは納得いかないけどね)
 2進数の"11111"は10進では"31"だけど、10進でそのまま11111秒は3時間5分3秒。だから、代入値を変えて、見える未来を変更するって発想はナイスでした。このあとHEX値にもしてるしね。
 それと、ちゃんと都度都度律義にコンパイルしてるって設定もまめですね。
 あ、モニちゃんが「10歳からプログラムを書いてる」って言ってたけど、私もまったく同じ10歳から書いてました。
 私のほうがモニちゃんよりだいぶ年上なんで、私の勝ちだね(←なんの勝負だよ!)。
 
 ああ。無駄話を書ききった!
 ここからようやく内容に言及しますね。
 
 セッティングは「おとなの事情」にそっくりですね。
 スマホがフィーチャーされてるところも。
 ただ、この映画、時間配分がおかしいんだ。
 第一幕が長い。私はWikileaksの話題に行くまでがセッティングの第一幕だと捉えましたが。
 どこまでが第一幕かは解釈によるけど、解釈を変えて、みんなが集まるところまでを第一幕だとすると、それは10分ほどしかなくって、だとすると今度は第二幕の途中まで会話がぐだぐだしすぎてるってことになる。
 あのパスワード・クラックのくだりって、私には「あるあるネタ」で面白かったけど、一般的にはどうなんだろう?
 ともかくその長い会話が、コンピュータ関連にリアリティを持たせるための努力だってことはわかるし、私はそこの正確さも楽しめたんだけど、詳しくない人にとってはひたすら退屈な会話劇だったんじゃないのかな? もっと端折ってもよかったんじゃないかな。
 
 で、そのあたりから「おとなの事情」だと思ってた物語が「ドロステの果てで僕ら」(←これ、大大傑作ですよ!)になっていく。
 そこで、「ドロステ~」と同じく物量作戦にもできたんだろうけど、本作は「アキレスと亀」を持ち出して、それが不可能だという設定に持ってゆく。
 そこで、上に書いた「ソースコード改変」作戦になるんですね。
 
 なんだろう。
 脚本家か原案かはわかんないけど、頭が良くて細部に拘泥しすぎる人が書いたんでしょうね。
 まあ、その細かい手続き部分も、私は楽しめたけど、もっとズバっとエンターテインメントに振ったほうがよかったんじゃないかな。
 
 あ。テクニカルに気になったのは、実行モジュールだけじゃなく、なんでソースコードまであったんだよ、ってところもそうかな。逆アセしてパラメータを変えたわけじゃない。ちゃんとソース一式が揃ってたんで、リコンパイルできたって設定なんですね。まあ、Leakするくらいだから、ちゃんとソースもあるよってことに解釈しましょう。
 
 あと、オチがひとまずは予想通りだったところも、ちょいと残念でした。
 リアクションも含めてね。私がここにいたら、「よくぞ、周到に騙してくれた!」って大喜びしてますよ。
 っつーか、ラストのセリフでそれも覆るんだけどね。
 
 「未来を写せるカメラ」って、映画でも小説でも、かなり手垢のついた設定ではあるんだけど、本作はそれに如何にリアリティを持たせるかに腐心したという点が、褒めポイントでもあるし、「そんなことしなくっても大丈夫だったんじゃないの?」と思う点でもあります。
 「未来カメラ」ものなら、「タイムシャッフル」もおススメです!
 
 逆に、「コンピュータ描写ダメダメ映画」は枚挙に暇がないんだけれど、ぱっと思いつくのは「予告犯」。
 あれは、IT企業を馘首になった男の復讐譚なんですが、序盤で生田斗真がログイン認証のソースを書いてるんですわ。
 これが、インデント全くなし。全部行頭から書いてるの。
 そりゃ、上司役の滝藤賢一じゃないけど、そんなソース書いてる奴いたら、俺だって解雇するわな!
 
 あ~。いつもは読んでもらった人が少しは楽しめるレビューを目指してるんですが、今回ばかりは書きたいことを綴っただけになっちゃった。
 でも、SEとかPGの人の感想も知りたいですね。
 
 とりあえず、久しぶりに採点なしのレビューにしておきますね。