空海花

ノマドランドの空海花のレビュー・感想・評価

ノマドランド(2020年製作の映画)
4.2
アカデミー賞作品賞、監督賞、主演女優賞受賞、6部門ノミネート。
ゴールデングローブ賞作品賞、監督賞
ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞(最優秀作品賞)

改造した自家用車やキャンピングカーで
各地を渡り、季節労働者として働く「ノマド」の人々の姿を描く。
監督クロエ・ジャオ。
原作は、ジェシカ・ブルーダー『Nomadland: Surviving America in the Twenty-First Century』(邦訳:ノマド:漂流する高齢労働者たち)
フランシス・マクドーマンドが映像権を買い取りプロデュースした。

『ザ・ライダー』で体験させられた
ドキュメンタリーのように存在そのものを描いているかのようなタッチは今作にも生きている。
アメリカの広大な自然の中に身体を擲った女優フランシス・マクドーマンドの存在感、溶け込み方には感嘆するしかない。

「ノマド」という言葉には“自由人”というイメージくらいしかなかった。
何ものにもとらわれず、
生きたいように生きる。
彼女たちは確かにそれを体現している。
そして同じ場所に居る時は協力し合う。
まるで家族のように。
でもまた旅立つ時には別れる。
そのサイクルは早い。

孤独だからこそ謳歌できる自由はあるだろう。
彼女らが自然と一体化しているような光景を目の当たりにする。
人間らしさ、その本質が浮きだってくるような。
でもこの映画を観ていると
ノマドであるが故の独特の悲しさが募ってくるのだ。

彼女たちはそれぞれ傷を抱えている人達だった。
主人公ファーンはリーマンショックの影響で住むところを追われている。
町自体が無くなるということが衝撃的。
戦争のPTSDとか。
病気を抱えて死に場所を見据える人も。
それでも生きていく姿には逞しさを感じるのだが
むしろ彼女の郷愁は誰よりも強かった。
故郷を捨てられないある種の弱さのようでもある。
それを責める気にはなれない。
それの何が悪いというのか。
「ホームは心の中にある」
その言葉はどれだけ彼女の心に寄り添い、共感できただろう。
この自由の為に果たす責任が自分にかえることを彼女たちは理解している。
だから労働は止めない。
プライドを失わない。
「友情をありがとう」
出会いにもっと感謝を。

さよならは言わない。
この道の先でまた会おう。
その台詞が時間を悠久なものに変える。

本作には、社会的な問題はもちろんあるし
同時に精神的な生き方も含む。
生活にはどちらかを分けて進むことも、考えることもできない。
ドキュメンタリーのような手法が同時に感じ取ることを助けてくれる。
私にとっては、車の金属を隔てた空間に独りで眠るのは恐怖が勝ってしまうけれど
風の音、草や土の匂い、満天の夜空の下で自分を感じる境地に僅かな憧れはある。

音楽ルドヴィコ・エイナウディのピアノ曲は、静かで何も押しつけない不思議な旋律で、逞しさと痛み、その調和を支えている。

人を選ぶ作品ではあるが
撮影監督ジョシュア・ジェームズ・リチャーズが撮りためた映像美は
できれば大きなスクリーンで観ることをオススメしたい。


2021レビュー#098
2021鑑賞No.187/劇場鑑賞#9
空海花

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