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映画 太陽の子のtaruponのレビュー・感想・評価

映画 太陽の子(2021年製作の映画)
3.9
ドラマの方は、オンタイムで、途中3分の2くらい?中途半端に見た感じでした。
映画版で改めて鑑賞。
ドラマ版とは視点を違えて編集しているとのことですが、正直ドラマ版をちゃんと見れていないので比較は無しで、純粋に映画版の感想を。

柳楽優弥、三浦春馬、この2人が本当に良かった。
柳楽優弥演じる石村修は、社会的視野とか情の部分のバランス感覚に欠けるくらいに研究バカ、実験バカな科学者。
こういうタイプって研究者あるあるなのだろうなぁ、自分の興味、研究対象に対して余りにも誠実で、だからこそそれがどのように使われどのような結果を生むのかについては、とりあえず目をつむりがちにになっている。
確かにこういう純粋に追い求める人達によって、いろいろな科学の進歩というのはもたらされるのだと思う。そして、それを利用する側の人間によいように使われる面もあるし、自分たちの研究を進めるために多少のことには目をつぶって協力体制を敷く場合もある。

それにしても、衝撃だったのが、原爆後の広島に調査に入るシーン、骨を拾い、それをサンプルとして持ち帰ることになる。そこにあるのは、衝撃を受けつつも、自分たちが成功したかもしれない原爆の成果がどのようなものであったのかを検証したいという気持ち。
確かに、検証することは必要だしきちんとやらなければならない。でも、それが遺骨であり悼む気持ちがあまりにも感じられず研究上の興味の方が先行している気がして、わかるのだがやるせない気持ちになる。
そして、クライマックスは原爆が投下される様子を観察することを、母に告げ、比叡山にのぼるシーン。
観察するという行為は、ある意味で大切かもしれないけれど、自分達が暮らす街、そしてそこに人がまだいる街を一瞬で廃墟にする様を観察するって常人の神経ではいられないものがある。
だからこそ、母は息子に思いを伝える最後の手段として、疎開しない 居続けるといったのだろうし、山頂で母の握ったおにぎりを食べることによって、そこに人が暮らしていることを思い起こすことができたのかもしれない。
柳楽優弥は修の研究バカな一面とある意味での狂気をよく演じていたと思う。相変わらず、目がすごくよい役者さんですよね。

そして、三浦春馬。なんか、彼自身の自死がどうしてもオーバーラップしてしまう。こちらもまた、特攻で常に死と隣り合わせの狂気を抱え込んでいる様、そしてすべてを諦めている諦観の感じをよく表していたと思う。

田中裕子の母、特に裕之の見送りシーンがよかった。最後おそらく欧米の母なら当然ハグだろうし、最後に息子を抱きしめたいでも日本の母はそんなことはできず息子の耳をさすってその未練の気持ちを抑え込んでいる様が切なかった。

そして、幼馴染3人で縁側で話すシーン、男たちは目の前の戦争にかまけているけれど、女は戦争後を見ている。この辛い現実を抜けた後の未来をどう生きるのか、この逞しさ、俯瞰が必要だよねって思った。
(コロナの今も今の大変さだけに追われるのではなく、その後を見通すことが大事)

原爆を作っていたのはアメリカだけではないということであったり、一方的な科学礼賛でもなく、原爆だめでしょ でもなくいろいろな立場のものをそのままにみせてくれる作りがよかったと思う。
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