理か

いつかの君にもわかることの理かのネタバレレビュー・内容・結末

いつかの君にもわかること(2020年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

父の思い


なぜ人生、さまざまで差もあるのだろう。
たくさんの家やビルの窓をきれいにする
窓拭き職人のジョンは、
窓から見える室内に目をみはる時がある。
今も部屋の至るところに散らばって置かれている
オモチャの数に驚いていた。
あのうち一つでも息子マイケルに持たせること
ができたら、と思ってその持ち主の男の子と
たくさんのオモチャを見ていた。

生い立ちは決して幸せというのではなく、
実の親にさえ疎んじられ幼い頃に他人の元で育ち、
腕や喉元ぐらいしか見えないが、身体のどれくらいの割合で広がっているのかと思われる刺青を施している。
若い頃から一人で苦労して時には道を踏み外すこともありながら生きて来たであろう。
妻と思った女性は可愛い筈のわが子をおいて出て行ってしまった。
子煩悩なジョンが幼いわが子を必死に育てて来た
ご褒美がこういうことだとは。
病気ですぐ近い先に自分の命の終末が迫っている。
気になるのは、自分よりわが子だ。
かわいい盛りの男の子。
男手一つで育てて来たが、いい子に育った。
ジョンは、俺の子にしては優秀じゃないか、
と心の内でちょっと自慢したい気もある。
しかし、人前でそんな素振りも見せない。
それどころか、どんな人の前に出ても恥ずかしくない人間に育つようにと礼儀には厳しい。
外見とは非なる繊細な心のジョンはいろいろと
心配してしまう。
病状を知らされた時からソーシャルワーカーに相談していて仕事の合間にマイケルを連れて里親候補と面談。わが子にはどんな人が家庭がふさわしいのだろう、と。また、自分がいいと判断しても、後に間違っていた、となることはないか、とも悩む。できるなら、実の母親に託すのが一番ではないかと迷い、親身に寄り添ってくれているソーシャルワーカーのショーナに相談するがもう手遅れだと断られる。
私もかわいい盛りに置いて出て行ける母親には期待しない方が良いと思った。
条件が見合う希少な候補者から選ばねばならないことを時間があまり残されていないことも含めて知らされる。

マイケルはどうか。保育園に行っても他の子は皆ママが送って来る。パパなのは自分だけ。
パパは優しい。自分を見つめる時の目はとても優しい。パパ大好きだ。絵本を読んでくれる。肩車してアイスも食べさせてくれる。最近、知らない人と会うことがよくある。みんな自分をじっと見つめて来る。その家から帰る時遊ばせて貰ったからとありがとう、と言わないと帰れない。いつも預かって貰う仲良し母子にすねてぐずっていた日、ちゃんと謝るまで帰らせてくれない。
飼うならウサギよりワンちゃんがいい。
最近、パパはしんどそうだ。

広大なグリーンに建つお屋敷の夫婦、
郵便局員で仲良し夫婦、
里子を複数受け入れている大家族、
若い頃の過ちでわが子と生き別れて妊娠できず養子をとりたいと夫と別れたシングルの女性、
どこに託そうか⁉️

だんだん頻繁に酷い頭痛や嘔吐に見舞われるようになる。 マイケルにも見られた。
高窓を拭こうとハシゴを上りかけてやめた。
動けるうちにと、ショーナから言われていた
思い出ボックス🧰に詰める。
マイケルに宛てたその時々の赤い封書、
マイケルの赤ちゃんの頃の母親と写る写真、
さまざまな思い出の詰まった写真、
一緒に作ったケーキに立てたロウソク、
母親の手袋、窓拭き器、   を入れた。

マイケルに絵本で "し"を教える。
「身体だけ残るんだ。」心や思いは消えてしまう、と。
以前からの虫やシラミの死で少し知った?マイケル。
「いつ死ぬの。」とも聞いて来た。
少しは理解しているのだろうか?
「ようしはイヤ。」とも。
でも、ジョンは思うのだろう、パパの心や思いが消えてしまってもいつも君のそばにいるよ、と。

退職し仕事と車の引き継ぎ。
だいぶやつれてしまった。
二人で絵本に落書きしたり、
遊園地に行ったりし思い出作り。
最後の力を振り絞りバスで向かった先は、••••

やはりお互いが求め合う相手がふさわしいと
思ったのだろうか。
壷井栄さんの『母のない子と子のない母と』を
思い出した。
理か

理か