次郎

すべてをかけて:民主主義を守る戦いの次郎のレビュー・感想・評価

4.0

恥ずかしながら本作を見るまで、アメリカで選挙に投票するには選挙人登録が必要だということを全く知らなかった。2018年にジョージア州で行われた知事選でトランプに忠誠を誓う白人男性と争ったのは、初の黒人女性知事を目指すステイシー・エイブラムス。彼女の最大の障壁は、制度をハックすることで露骨にマイノリティを選挙から追い出そうとする、現代のジム・クロウ法だった。
ドキュメンタリーとしては淡々としているけど、Netflixの『13th-憲法修正第13条』を見た人が次に見るべき作品としては間違いなし。なぜオバマの後にトランプが選ばれたのか、2010年代以降に南部中心で進められる投票権の閉め出しにより、マイノリティが政治の土台から取り除かれていってる状況を嫌というほど理解することができた。マイノリティに不利になるようAIを利用した不平等な選挙区の割り振り、予算を削減して投票所を閉鎖したり意図的に選挙管理人に教育をせずにすることで混乱を生じさせるといった行為の数々には憤りを通り越して呆れすら感じるほど。余りにも露骨なやり方には流石に反発が集まったのか、ジョージア州は知事選後に大統領選と上院選の両方で民主党は勝利している。しかし2021年の3月末には投票規制法が可決され、なんと投票の列に並ぶ有権者に近づいて水や食べ物を与えることが犯罪になってしまうとのこと。なんで?投票するのに3時間も並ばされるのにだよ?
エンドロール間際に出てくる「選挙の公平性ランキングで、アメリカは西洋の民主主義国家で最下位である」という一文にはもはや苦笑いしか浮かばない。BLMの問題の背後で進んでいる、投票権の抑圧という問題に切り込んだ本作は、翻って日本の投票権のシステムについても考えさせられてしまう。学生時代、普通に話していた友人が投票権を持っていなかったことを思い出した。彼女は夢を叶え、弁護士になれることは出来たのだろうか。
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