まるみ

サマーフィルムにのってのまるみのネタバレレビュー・内容・結末

サマーフィルムにのって(2020年製作の映画)
4.6

このレビューはネタバレを含みます

どこか懐かしい感じの青春映画だなって思いながら観ていた。夏。地味にはみ出したやつらのくだらなくてうだるような暑い日々。
SF、夏、コメディといえば「サマータイム・マシンブルース」なんかを思い出したり。
本編にもちらっと登場する「時をかける少女」。文化祭といえば「リンダリンダリンダ」か。いろんな夏が蜃気楼のように立ち上がる。夏ってそんな季節か。きっとこの映画もそんないくつもの夏に続くんだろう。何回夏って書くんだろう。

映画って不思議なもので、小説家が小説を書く小説、歌うことを歌う歌、も無くはないんだろうけれどあまりピンとこない。
けれど映画を撮る映画は沢山ある。すごくしっくりくる。映画を撮るということはとても映画的なんだろうか。それはたいていとても映画愛に溢れたものになる。
それってちょっと暑苦しいものだったりもするんじゃなかろうか。大好きってしか言えねーじゃんとばかりに映画が好きだって思いがずっと溢れてた。
でもちょっとあれ?って。今まで私が観てたものってなんだ?んん?

真っ直ぐ進んでたつもりが、いつの間にか目の前には真反対の景色があったり。
あっちへこっちへ振れながら少しずつ進んでくものなのかも。愛も青春も映画も。





以下ネタバレ











ハダシ、ビート板、ブルーハワイ。劇中で由来が語られることはないが、夏を想わせる、そして絶妙にそれぞれのキャラクターを表すいいあだ名だ。
それぞれの動機はあれど一丸となって映画制作に奔走するハダシ組。彼らがこの映画のDNAの一本のらせんだとするなら、もう一本は真逆のKarin組(ラブストーリー)だ。
このふたつのらせんは時にかち合い、また離れ、を繰り返しながらそれぞれの映画の完成へ向けて少しずつ進んでいく。

あっちこっちへ振れながら進むふたつのらせん、本当はちっとも違わないのかもしれない。無骨な時代劇製作にドキドキ青春ラブコメが入り込んでくる事もあるだろう。

ハダシとカリンが互いに孤独な編集作業に苦しむ中、ソリの合わないふたりが肩を並べて恋愛映画に涙するシーンも素晴らしい。
『言わない美学』の良さも認めながらも、主人公に「好き」ばっか言わせるアヴァンギャルドなラブストーリー監督は語る。
『勝負しない主人公とか撮りたくないもの』と。それは時代活劇を撮る巨匠の口から出てもおかしくないものだ。

お互いに補い合いながら完成を迎えた作品はついに上映の時を迎える。
完成とともに消え去る運命の映画。上映後姿を消す主役?そんな切なげな、どこかで観たようなセオリーも予感もすべてひっくり返して、まさかの『追撮』が始まる。

今まで自分が観ていたのはラブストーリーだった…!?大きく振れるらせんに振り回されるように、何度も反転するように活劇とラブストーリーがかち合い、また離れを繰り返しながら見事に混ざり合っていく。
映画を上映中に止めてその場で結末を撮る、なんてリアルだったら掟破りも何のその大失敗作だ。でもそれさえも『映画』の中では最上の胸キュンでクライマックスのラストシーンになりえる。

もともとコメディでSF関連の考証のユルいとこなんかもあるとはいえ、この段ではさらに辻褄とかリアリティを投げ捨てはじめる。
突然、バチバチの殺陣を始めるクルー(これはカリン組のクルーだったか?剣道部の可能性もあるけれど女性もいたので違うと思う。いずれにせよ不自然だ)。
物語の転換とともに確信犯的にリアリティラインをある意味放棄したこの荒いパートは、最後にそれこそ自主映画のようなパッションとエネルギーを映画に宿らせた。

ラスト、ありがちな後日談などなく切れ味鋭いタイトル一閃で気持ちよくバッサリ終わらせたのも、観客への愛ある一太刀を感じて痛快でした。
まるみ

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