keith中村

オールドのkeith中村のレビュー・感想・評価

オールド(2021年製作の映画)
4.5
 我々シャマラニスト待望の新作。これが劇場で観られる喜び!
 本篇が始まる前に、尊師シャマラン様のご挨拶の動画まで拝ませてもらえる幸せ!
 シャマラン師に"Welcome back"と言うてもらえましたわ!
 
 「シャマラニスト」という言葉はすでに説明不要だろう。
 世間の賛否両論・両論併記・口論乙駁・議論百出・毀誉褒貶・侃々諤々・喧々囂々・誹謗中傷を尻目に、シャマランのすべての「経典」のすべてをありがたく拝受する教徒のことである。私もシャマラニストとして、今回も新たな「経典」の教えを学びに劇場、いや大聖堂に礼拝してきたのです。
 
 とはいえ、シャマラニストは盲目的な信者ではない。
 尊師の経典の中に、妙なところがあれば、クスッと笑ったり、ツッコんだり、「可愛らしいのう」とほほ笑むような客観性をちゃんと持っているのだ。
 その意味で今回は「いい方向」で、「おお、尊師よ。どうなさったのだ」と思った。説明してくれなくても、我々シャマラニストは大満足なのに、ご叮嚀にあれにも、これにも、ちゃんと説明をつけてくれてるじゃないか!
 
 本作はシャマランには珍しく原作もの。
 原作は、「砂の城」というグラフィック・ノベルで、私は未読なんだけれど、調べてみたら原作のほうがすべての説明をせずに終わるらしく、よりシャマラニックな物語であるご様子。
 映画のほうも、「最大の謎」は「うん。なんか、そういう土地なのよね」と投げっぱなしなんだけれど、原作にはない「なぜそこに招かれたか」と「どうやって脱出したか」をロジカルに見せてくれるので、なんというか「シャマランったら、ようやくちゃんとした作劇ができるようになってきたんだね」という感じ。
 あわわ。言い間違えた。
 こうです。
 「尊師シャマラン様。今回の経典はあなた様に批判的で愚昧な民衆の耳目にも、きちんと届く配慮がなされてあって、これでまた信徒が増えるかと思われます。我々信者としても嬉しうございます」
 
 実際、序盤から「時間に関する会話の振り」がめちゃくちゃ多く、予告篇で基本設定を知ってると「いや、だから、その『時間』がヤバくなるんでしょ?」とワクワクできるし、途中で子供たちがする遊び、あれって日本でいう「達磨さんが転んだ」的なもの? あの「ピタッ」と止まってる感じは、ビーチでの悪夢との視覚的に見事な対比になってたしね。
 楽しいわ~。
 
 シャマラン教の最高の経典はなんといっても「ヴィジット」であり、本作はそれに比肩するほどの経典ではないとは感じるけれど、同じ「姉弟」が活躍する物語として、素晴らしかった。
 ただね。
 配給会社さん。邦題はよくないね。
 まあ、原題がそうなんだから仕方がないんだけど、「オールド」なんてウィスキーみたいな題名じゃダメでしょ。
 これ、どう考えても、「6才のボクが、大人になるまで。PART2」でしょ!!
 
 さて。戯言はこれくらいにして。(←いつも戯言に終始してるじゃないか!)
 
 設定は突飛だけれど、これ、全然普遍的な恐怖を描いてますよね。
 メタファーとしては、「ひとつの状況に縛られて、ひたすらに歳を重ねていくだけの人生」ってことじゃないですか。
 これは半世紀以上生きちゃった人間としては、怖いですよ。
 劇中で起こるさまざまな事件や事故も、本当の50年の間なら、誰の身に降りかかっても全然不思議じゃない「日常」ばかりだもんね。
 「できちゃった婚」だったり、「死産」だったり、「痴呆」だったり、「理不尽な暴力」だったりね。
 「どこにも行けない状況」はコロナ禍にもダイレクト・リンクしてるしね。
 
 その意味で、本作は「宇宙人がやってきて、なんかウチの田んぼにミステリー・サークル描いてるよ!」とか「うっひゃあ! 人がばんばん飛び降りてくるぅ!」や、「僕は電車事故でも死にましぇ~ん!」よりも、非常にリアルな怖さを感じました。
 もっ、もちろん、そっちの映画も全部大好きなんだけどさっ!
 
 あ、そうそう。シャマラン師よ。
 映画の中に、「答え合わせのない映画クイズ」ぶっこんでくるの、やめてもらっていいですか?
 映画ファンとしては、「え? えっと? 何だっけ?」って、正解に辿り着くまでのしばらく、ずっと脳内データベースを検索して、全っ然映画に集中できなかったわ!
 ブランド? 浜辺が舞台だから「On the Waterfront」か? いや、年齢的にもニコルソン出てないよな。
 ニコルソンなら、浜辺で、自動車で、波がざっぱーんの「Terms of Endearment」? いやいや、絶対ブランド出てなかったじゃん!
 ん~っと…。あった!
 はいっ! ピンポン! 「ミズーリ・ブレイク」!
 しかも、多分、この「映画クイズ」、せっかく思い出せたのに、本作の物語やテーマとあんまりリンクしてないんだわ。
 
 「ファミリー内に必ず病人がいる」が鍵になってる伏線はよかったですね。
 っていうか、あの企業、偉いわ!
 「あの土地」を発見して、そんな有効活用を思いつく?! 我々も今、ワクチン打ったばかりで、先の副作用は未知数だからさ。ほんとにあったらありがたいけどさ!(←「あの企業」と同じ悪魔的思考)
 いや、あの企業が偉いんじゃないな。そういう設定を思いついたシャマラン師が偉いんだ!
 
 シャマラン様、一生ついて行きますぜ!(←っていいながら、満点じゃないんだ、俺……)

 「アイデアはめっちゃキャッチーで素晴らしいけど、トータル・コーディネート力がない作家」って意味ではシャマランってインドの山◯悠◯だよね。
 なんてことは、ここには書かないでおこう(←「小僧の神様」エンディングなレビューの締め方)