カリカリ亭ガリガリ

オールドのカリカリ亭ガリガリのレビュー・感想・評価

オールド(2021年製作の映画)
4.8
超グッときた。シャマラン流人生哲学寓話であり、人生そのものへの優しすぎる眼差し。人が成長しつつ老いていきながら、いつ何が起こるか分からない中、あっという間の時間の流れの中で大切な人へと馳せる想いと後悔、という、「人生」をそのまんまビーチでの時間に置き換えているアイデアの面白さ。「ずいぶん前に喧嘩したよね……もう何に怒ってたのか忘れちゃったよ」号泣。ぼんやりとした視界の中に映る大切な人と、ぼんやりとした聴力の中で聴く大切な人の声、爆泣き。

子供が急に成長したり大人が急に老いたり、生きている時間を自在に操って「人生」を描いていく、って、実は「映画」が普段やっているマジックでしかなく、それをジャンル映画に当てはめて可視化してみせる楽しさが天才。お馴染みのカメオ出演のシャマラン自身がヒッチコック『裏窓』よろしくカメラのファインダーを覗いているメタ構造からして勝ってる。俺たちもあのビーチ=映画へとシャマランに連れて行かれていた!

子供が成長するとトーマシー・マッケンジーやヘレディタリーのお兄ちゃんになるのは面白いけれど、その過程を敢えてカメラで撮らない、省略してしまうというのは「何一つも撮っていないじゃないか」と確かに思うし、もしかしたら肌の一つとして撮られていないかもしれないけれど、ほとんどそういった下手なところが吹き飛ぶくらいには「映画」が誠実で、だから気にせずグッときていた。この世界の真実に気付く話というよりは、この世界での自分の真の役割に気付く話で、それはいつものシャマランのアティテュード。

精神異常描写への批判が当時からあったが、あの医者のオッサンは病気以前にレイシストな性格なんだろうし、年老いて認知症が進行するほど暴力的になる例とかもあるからそれほど気にならなかった。医者の奥さんがTHEトロフィーワイフで、ルッキズムの犠牲者って感じなのもイヤな感じだったが、面白い死に方をするので笑いました。
同時に、持病の描き方やら老人フォビア?な描写は『ヴィジット』や『ハプニング』がダメだった人は余計に不快に思うかもしれない。どこにカメラを向けて、どこをフォーカスするのか、という点で、シャマランはそこから視線をずらせないのはよく分かった。個人的には、それ以外の一面も確かに描いていたこの映画には、再三誠実さしか感じられないのだけれど。

『皆殺しの天使』と『美しき冒険旅行』と『ピクニックatザ・ハンギングロック』を参考にして作ったよ!って、そんな映画が面白くないわけない!!

中盤のある気まずすぎるシーンで爆笑した。(あれは原作にもあるけれど)あれを台詞ではなく画一発で「あちゃ〜」と見せてくれるのがシャマラン!!