開明獣

川っぺりムコリッタの開明獣のレビュー・感想・評価

川っぺりムコリッタ(2021年製作の映画)
5.0
かくりょ(隠世、幽世)という言葉を思い出した。私達がいるこの現世に対して、死んだ人のいくところ、言い換えれば、魂が旅立つところだね。魂は死んだらどこに行くのかな。ポール・ゴーギャンの有名な絵、「我々はどこから来のか、我々は何者か、我々はどこへ行くのか」も思い出したなあ。

忘れられていい人なんて誰もいない。それなのに、無数の無縁仏が名もなく葬られていく。彼らの魂の行く末はどこなのだろうか。

社会に適合出来ない人たち。社会のメインストリームに乗れない人たち。そういう人たちは、幸せを感じてはいけないのだろうか。

目線って簡単に降りないんだよね。開明獣がそれを痛感したのは離婚を経験してから。それも2度もね。娘は以前にお前の親父は2度も離婚してるなんてどこか問題あるに違いない、だから、お前にも問題あるんじゃないか?と言われたことがあるそうだ。それを後にカミングアウトされた時の心の傷みは中々忘れられない。

でもね、自分もかつてはそう思ってたんだよね。離婚するやつなんて、クズだ、きっと問題あるに違いないって。確かに問題あったと思う。それは否定出来ないよ。だからといって、全部、人間性までダメ出しされると辛いよね。だから、ある意味、この作品に出てくる登場人物たちの痛みもある程度分かるつもりだ。偉そうだけど。

だからこそ、萩上監督の優しい視線がたまらなく響くんだな。観てて何度もたまらない気持ちになったよ。誰だって、何かを幸せに感じていいはずだし、誰かが覚えてくれるからこそ、生きていけるはず。命の電話の薬師丸ひろ子さんの声が優しかったな。

帰りに、塩辛と江戸むらさきと、ししゃもと、きゅうりを買ったんだ。ご飯を炊こう。茄子のお味噌汁も作ろう。それはかけがえのない幸せの一つなのだから。
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