蟬丸

川っぺりムコリッタの蟬丸のレビュー・感想・評価

川っぺりムコリッタ(2021年製作の映画)
4.0
ひとと向かい合ってご飯を食べたくなる映画だった。
半年ぶりに映画館で映画を観れた。最近はどうにも出かけてまで映画を観る気になれず、ふと思い立って行ったが、行って良かった。はじめて行く映画館で座席に座って予告を眺めていると、やっぱりここは居心地がいいな、と思えた。リハビリにいい作品だった。

大人になるまで生きていると徐々にいろんなものを獲得して成長していくRPGみたいな感覚を養いがちだけど、獲得ばかりをして無限に成長するわけではない。獲得と同時に失うものもあって、また獲得したものも永遠ではないから。ひとの手は2本しかなくて、一度にいっぱい抱えて歩くことはできないから。
みんなどこか欠けている。幸せの中にいてもなにか足りないような気がする。大人になるとみんなひとには言えないようなこともひとつやふたつ携えている。あるいは、大切なものをどこかに落としてきてしまっている。近くにいるべきはずのひとが、近くにいてほしいひとが急にいなくなったりして悲しくなる。それはそれとして、また新しくひとと出会って楽しくなったりする。もしかすると日々はわるいことばかりで、それはどこまでも続いていくかもしれないけど、そうするだけの知恵(という言葉が適切かはわからないが)があるひとは、日常の中にほんの小さな幸せを見つけてそれを糧に1日ずつ、1牟呼栗多ずつ生きていける。いつでもどんなことでも起こりうるし、それらはすべて不可逆だ。良いことも悪いことも起こってしまえば取り返しはつかない。同じ"生きる"なら、少しは笑って暮らしたい。

夏野菜を食べるシーンで、母の実家の畑で祖父が育てたミニトマトを幾度か食べたことを思い出した。
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