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林檎とポラロイドの一人旅のレビュー・感想・評価

林檎とポラロイド(2020年製作の映画)
4.0
クリストス・ニク監督作。

ヨルゴス・ランティモス作品の助監督として腕を磨いたギリシャ出身の新鋭:クリストス・ニクの長編監督デビュー作で、記憶を喪失した男の風変わりな日常を見つめた異色の人間ドラマです。

突如として記憶が喪失する奇病が流行している現代のギリシャを舞台に、バスの中で記憶を失った状態で目覚めた中年男の日常を描いた作品です。自分の名前も住所も分からなくなった男が、精神病院の主治医から提案を受けて、元の記憶を回復させるのではなく新たな記憶を積み重ねて新たな人生を構築する=“新しい自分プログラム”に取り組んでいく姿を淡々と見つめていきます。

病院から日々送付されるカセットテープの指示通りに行動した上で、証拠としてポラロイドカメラでその様子を撮影し、新たな記憶を植え付ける作業を黙々とこなしていく男の風変わりな日常の顛末を、同じ境遇にある女性との出逢いと交流を織り交ぜ描いた異色のヒューマンドラマですが、男の言葉と行動の中にある違和感と映画的仕掛けによって、悲痛な記憶に囚われた人間の魂のもがきと受容の痛切な物語が静かに浮かび上がってきます。

まるで『トリコロール/青の愛』(1993)の再来とも言える、愛と喪失と再生を巡る静謐なヒューマンドラマの佳作で、主演のアリス・セルヴェタリスが感情を抑えた静かなる名演を魅せています。
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