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あの夏のルカのRenのレビュー・感想・評価

あの夏のルカ(2021年製作の映画)
3.5
前作『ソウルフル・ワールド』で完全に「やりすぎた」ピクサーが、一つも臆することなく全年齢対象ムービーに舵を切った!こんなに「誰にも嫌われない」映画も昨今逆に珍しいのでは?

オープニングは『月と少年』から『ファインディング・ニモ』のような世界観で魅せる。ピクサーのCGはどんどん写実的表現に長けたものになっていくのかと感じていたところに、今作のような「手書き感」「アニメ感」溢れるタッチの作品が来てびっくり。絵本らしくもあって、どこを切り取っても優しさを感じられた。

『ファインディング・ニモ』『レミーの美味しいレストラン』のように主人公がルールを破ることで物語が始まるが、この2作と違ってルカが特に外界に憧れている訳では無い、というのがポイント。物語の推進力がとにかく友情である。坂道を自転車で駆け降りる=友情。

舞台設定がとってもミニマルなのも斬新だった。ピクサー史上最もキャラクターの行動範囲が狭いのではないかと思われる。だからこそ、ラストで爽快になれる。タイトルバックからThe End、海から空へ。

正直途中まで、退屈はしないけど薄味で面白味もあまり無いなあと思いながら観ていた。評価がぐっと上がったのは、ルカのある言動によって映画に不穏な空気が訪れるあの瞬間(ここはぜひ観てみてほしい)。ファミリームービーであることは間違いないのだけど、「友情」と表裏一体で「嫉妬」と「決別」をピクサー随一のエグさ・リアルさで描いている映画でもあった。これによって、映画が終わる頃にはルカとアルベストの絆の素晴らしさに芯が通る。

ただ終盤、突然お話が美談に急ハンドルを切るのは気になった。マッシモのバックグラウンドが無ければ何も解決していなかったのでは?それからラスト、あるキャラクターに隠された秘密がさらっと明かされるのだけど、あれは何だったんだろう?あと猫ちゃんをもっと伏線として活かさないと。

父ロレンツォの兄の、出てきた瞬間に「これ完全にエンドロール後のおまけ映像要員だろ」と一発で分かるキャラクターよ。加えて今作のヴィラン的な存在であるエルコレの、小物感を全く隠さないキャラ造形が逆に面白かった。シンプルに頭が良くない。こんなちっちゃいディズニーヴィラン他にいないよ。


《第94回アカデミー賞戦歴》
ノミネート
⭐︎長編アニメ映画賞
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