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私は決して泣かないのakrutmのレビュー・感想・評価

私は決して泣かない(2020年製作の映画)
4.2
出稼ぎ先のアイルランドで事故死した父親の遺体を引き取るために向かった17歳のポーランド人少女が、持ち前のバイタリティで待ち構える困難に立ち向かう中で、今までほとんど知らなかった父親を知っていくことで自身も精神的に成長していく姿を描いた、ピョートル・ドマレフスキ監督のドラマ映画。1200人を超える応募者の中からオーディションで選ばれた主演のゾフィア・スタフィエイ自身も、出稼ぎに来た父親とともにダブリンに2年間住んでいたそうである。

本作のストーリーの背景には、いわゆる「EU孤児」と呼ばれる問題がある。本来は、経済的に豊かなEU加盟国に両親が出稼ぎに行くことで、両親と離れて暮らさざるを得なくなった子供たちのことをEU孤児と呼ぶので、父親が単身赴任している本作は本来の意味ではEU孤児ではない。それでも離れ離れになった家族のつながりが希薄になってしまうという意味では同じである。小さい頃に父親と離れた主人公の少女オラは、父親のことを車を買うためのお金をくれる存在にしか感じておらず、「父親」というよそよそしい言い方でしか父親を呼ばないことを、いつも母親に咎められている。一方で母親のほうも、障がいを持つ息子の世話などで手一杯で、父親の住んでいる場所の住所さえ知らない。

そんな社会的孤児の状態を顕在化させるのが、出稼ぎ先での父親の突然の死。英語が話せない母親に代わって、17歳の娘が単身でアイルランドに渡って、様々な手続きや処理を行っていく。学校をサボって酒を食らうわタバコを吸うわと元々豪快な少女であるオラが、何もわからない雲を掴むような状態から猪突猛進に進んでいく姿は見ていて清々しく、思わず映画に釘付けになってしまう。

そんな彼女のバイタリティ溢れる行動とともに描かれるのが、職場の同僚など父親を知っていた人々を通じて、父親がどういう人間なのかを知っていくという父親の再発見と、それに伴うオラの精神的な成長譚である。父親が家族への送金(オラの新車代も含めて)のためにどれだけ頑張っていたか、どれだけ孤独だったかを知っていくことになるが、それでもまだオラは自分中心にしか考えられない。そんなときに、アイルランドでいろいろと助けてもらったポーランド人向けの職業紹介所の所長がオラに言う「典型的なポーランド人だな」ということばによって彼女も目を覚ますことになる。この本作の肝となるシーンがとても印象的。

そんな17歳の少女の成長譚をポーランドの社会問題に絡ませて描いた秀作である。
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