ShinMakita

私は確信するのShinMakitaのレビュー・感想・評価

私は確信する(2018年製作の映画)
2.5
2000年のある日曜日、フランス・トゥールーズ。大学で教鞭をとるジャック・ヴィギエの妻スザンヌが失踪した。ジャックとスザンヌの仲は冷えており、失踪時スザンヌには既にデュランディエという彼氏もいた。ジャックが捜索願を出したのが10日後であったこと、ベビーシッターが月曜日に浴室で血痕を見つけたこと、ジャックがスザンヌのマットレスを処分したこと、家にスザンヌ愛用のバッグや化粧品が残されていることなどから、警察はスザンヌを家出人とは考えず、夫に殺害されたものと考えジャックを逮捕する。だが起訴されたジャックは、犯行を完全否定。結果、証拠不十分で無罪を勝ち取った。ところが検察側はそれを不服とし控訴。事件から10年が経過した2010年、第二審が開かれることになる…

レストランの厨房で働く女性シェフ、ノラは、ごく普通のシングルマザーである。しかし息子の家庭教師であるクレモンスと親しくなり、「ヴィギエ事件」に並々ならぬ関心を寄せていた。クレモンスはジャック・ヴィギエの娘。第二審を控えているのに、ジャックが鬱病のため全く裁判準備ができていないことを知り、ノラは手助けを買って出る。まずは著名なデュポン=モレッティ弁護士にひたすら頭を下げて弁護を依頼。そしてモレッティに協力し、前回の裁判では開示されなかった「関係者の電話通話記録」の書き起こしを手伝うことになる。この通話記録から、事件の新たな面が見えてきた。スザンヌ失踪直後から、デュランディエがスザンヌの知人友人たちに電話をかけまくり、「ジャックがスザンヌを殺したらしい」と吹聴していたのだ。これが噂話となって広まり、警察がハナから殺人としてジャックを疑うキッカケになったのだ。 何の証拠もなく、そもそも死体すら無いのに殺人犯として裁判にかけられたジャックが気の毒すぎる…冤罪を確信したノラは、やがてデュランディエが通話記録内でついた大いなる嘘を発見する…

「私は確信する」

以下、私はネタバレする


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法廷劇は、「裁きは終わりぬ」から「シカゴ7裁判」まで数多く観てきましたが、これはかなり斬新です。
まず、主人公が珍しい。裁判関係者…被告原告、判事、弁護士、検事、陪審員、警察官、事件記者などが主人公になるのが普通ですが、本作はまさかの一般傍聴人。被告とも無関係な普通の人なんです。そしてプロット。観客の思い込みを完全に裏切ってくるんですよ。

裁判映画の醍醐味は、何と言ってもサプライズとどんでん返し。本作は「ヒッチコックマニアの男が仕掛けた完全犯罪」みたいな惹句から期待しちゃいますが、残念ながら意外な結末・意外な真犯人の登場はありません。というか、「真犯人の特定はこの裁判の本質ではないし、上記のような惹句に惑わされることは慎むべき」ということを改めて気付かせる映画なんですよ。スザンヌが殺されたかどうか、もし殺人なら誰が殺したか…が問題ではなく、ジャックが殺したという証拠があるかどうか、なんですよ。それがない以上、推定無罪であるという法の大前提を示す作品なんです。監督の分身である主人公ノラの正義感が暴走していくサマは、監督の自己批評なのかもしれません。モレッティ弁護士が彼女を諌める場面と最終弁論が本作のキモ。噂に惑わされる世論・マスコミ。それに煽られて勇足の警察検察…冤罪、ほんと怖いわ。そして、冤罪だ・無罪だと確信してしまうことも、実はちょっと怖い…
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