えーこ

ドライブ・マイ・カーのえーこのネタバレレビュー・内容・結末

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

第74回カンヌ国際映画祭脚本賞他全4冠!!
濱口竜介監督·脚本、
村上春樹の短編小説「ドライブ·マイ·カー」をベースに、同作を含む短編集「女のいない男たち」に収録される「シェエラザード」「木野」のエピソードも織りまぜ、1人の男の喪失と再生を描く。

冒頭、白み始めた空に黒く裸女のシルエット、
ことの終わり、彼女は奇妙な物語を語り始める…
なんとも淫縻でゾワゾワさせる。
舞台俳優兼演出家の家福は愛する妻と満ち足りた日々を送っていた。
しかし、彼女はある秘密を残したまま突然この世からいなくなってしまうー

3つの短編からこうやって1つの長編を創り出すのかとその脚本力がお見事!!
春樹臭を纏いつつも、新たな物語に生まれ変わっている。
劇中の「ワーニャ伯父さん」がストーリーと呼応するのも巧妙。
赤いサーブは妻の化身?
テープから流れる、感情のない亡き妻の声はベタッと絡みつくようで、
死者と対話するかのオカルト。
原作とは異なる、高槻が語る彼女の物語の続きはもはやホラー、
女の情念のようなものが露わになる。
この劇中劇が実験的で面白く、
様々な国の役者が各々の言語で話し、
舞台上には複数の字幕が流れるというグローバル。
言葉は国境を越える!?

同じ喪失感を抱える家福とみさき、
その虚ろな心を煙で満たすかのように煙草を吸う。
生きていれば娘と同い年のみさきと出会ったのもきっと何かのめぐり合わせ、
二人の距離感が心地よい。
サンルーフから煙草を持つ手を伸ばす二人、
言葉なくとも互いに心の中でわかり合ってるのが感じられる、
とても映画的で美しいシーン。

木野がカミタに導かれたように、
欠けてしまった何かを見つけにどこか遠くへ。
過去を遡るようにいくつものトンネルを走り抜ける。
自分自身をまっすぐ見つめるために、
あのとき一緒に殺してしまった心の弔い旅。

幕が下り、ここで終わるのかと思ったら、
コロナ渦の現在。
私たちはまだまだ苦しまなければならないのか。
いつ来るともわからないゴドーを待ちながら、
私たちは生きていくほかないのだ。
車内でマスクを外したみさきの頬にもう傷はない。
目の前には長い道が続いている。
きっと大丈夫、
自分の人生を走り続けよう。
ラストのタイトルが後押しする。
えーこ

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