松原慶太

ドライブ・マイ・カーの松原慶太のレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
4.2
なかなか評するに難しい。すごく高いハードルを自ら設定し、それをどうにかクリアした、という意味でチャレンジングな作品。

ストーリーをかんたんに言うと、愛する妻を寝取られた演出家が、自らの心の傷を受け入れるまでの話。そこに過酷な人生を歩んできたドライバーとの友情が交差する。

高いハードルというのは、1)村上春樹の映像化 2)もうひとつのストーリーラインとしてのチェホフ戯曲。3)映画内演劇(しかも多言語演劇)という試み。この3つの要素を組み合わせ、破綻なくひとつの映画にまとめあげた。これだけで驚嘆に値する。

かつて村上作品の映像化といえば、大森一樹「風の歌を聴け」とか、市川準「トニー滝谷」のような、個性的といえば聞こえがいいが、ヘンな映画が多かった。

それがここ20年くらいは、村上作品としても映画としても水準の高い作品が出てくるようになり(トラン・アン・ユン「ノルウェイの森」、イ・チャンドン「バーニング」)、僕としてはイチャンドン作品が一本の映画としては完成度が高いと思っているんだけど、それにしても本作のような、とても野心的な作品が邦画から出てきたことはよろこばしい。

まぁ観ているあいだは、多言語演劇なんてほんとに成り立つんかいなとか、北海道のくだり丸々要らなかったんちゃうかとか、最後サーブを彼女にあげた(託した)というのがいまいち伝わりづらいとか、いろいろ思うことはあったものの、おそらくは傑作と言い切っていい。
松原慶太

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