ひこくろ

浜の朝日の嘘つきどもとのひこくろのレビュー・感想・評価

浜の朝日の嘘つきどもと(2021年製作の映画)
4.1
地方テレビ局の記念作品ってのはどうしても、地元を舞台にした「いい話」になりがちだ。
この映画でもそういう面は強く、特に状況や感情なんかを台詞で説明してしまう辺りにそれを感じた。
ただ、それだけに収まらない魅力も十分にあった。

普通に生きているように見えるけれど、いろいろなものを抱えている登場人物たちの人物造形がまずいい。
なかばテンパりつつも、映画館を潰したくないという思いで暴走していく主人公のすがすがしさ。
一方で、もう諦めモードに入ってしまっている映画館の支配人のやる気のなさ。
この二人の掛け合いが、口の悪さも相まって、とにかく楽しい。

また、なぜ主人公が映画館を潰したくないのか、の鍵となる過去の物語では、映画好きで奔放な高校教師が出てくるのだが、この人の存在がまた素晴らしい。
適当なやさしさやなぐさめなどは一切口にせず、女教師はずばずばと本音で語る。
それに対して、主人公も心を開いていく。この掛け合いが、支配人の時とはまた違う味があって楽しい。

現実に地方の映画館は存続の危機に立たされているだろうし、こんな夢物語のようなことはないだろう。
言ってしまえば、これはリアルさから最も離れた、フィクションであり、おとぎ話に過ぎない。
でも、このおとぎ話は願いなのだと感じる。それは映画館に対する愛だと言ってもいい。
人と人との掛け合いが、人間をより魅力的に見せ、こういう人たちがいて、こういうことが起こったら、どんなにいいだろうなあと思わされる。
現実にあったらいいなあと感じさせられる。
その時点で、このおとぎ話には価値がある。
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