ひこくろ

映画おしりたんてい さらば愛しき相棒(おしり)よのひこくろのレビュー・感想・評価

4.3
あらゆる部分の二面性に、ものすごく複雑な気分になる怪作だった。

タイトルからも想像できる通り、話の内容は本格的なハードボイルドもので、古き良き時代の探偵ミステリーの匂いがプンプンする。
物語や背景、台詞、演出なんかもそれを裏切らず、雰囲気はとにかく格好いい。
が、その主人公は顔がお尻という探偵なのだ。

ギャグやパロディとしてやってるのなら笑いで昇華されるが、映画は大真面目にハードボイルドをやっている。
それこそ過去作品にものすごく敬意を払っているのがわかるし、王道の話をじつに王道に描いている。
ふざけている要素は微塵もない。
だけど、主人公は顔がお尻の探偵なのだ。

これは内容に関しても同様で、映画は思いのほか深いところをづきづきと突いてくる。
美術品における本物の価値とは何なのか。
本物と贋作とを分ける要素とは何か。
贋作だけが評価される人間に才能はあるのか、ないのか。
絵を描く意味はどこにあるのか。
どれもこれもが大人の鑑賞に堪えうる、というか、むしろ大人にしかわからないようなテーマばかりだ。

しかも、それを上質な本格ミステリーと気の利いた台詞と、探偵と相棒の絆でもって、これまたじつに大人向けに描くのだ。
ある意味でえげつないほどに。
でも、冒険活劇であり、繰り返すが、主人公はやっぱり顔がお尻の探偵なのだ。
そして、一番悩ましいのは、この映画ではその大人の部分と子どもの部分が乖離もしてなければ融合もしていないのだ。
どちらに偏ることもなく、なんとなく、絶妙な形で併存している。
だからこそ、悩ましさは余計に募る。

「チャンドラーの絵本」ってのが仮にあったら、きっとこういう感じなんだろうと思う。
大人向けでも子ども向けでもない。
でも、大人向けであり、子ども向けである。
単純に面白くはあったけど、とても悩ましい複雑な映画だと強く思った。
ひこくろ

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