keith中村

フラ・フラダンスのkeith中村のレビュー・感想・評価

フラ・フラダンス(2021年製作の映画)
4.5
 私の世代では、いまだに「常磐ハワイアンセンター」と言ってしまう「スパリゾートハワイアンズ」を舞台にした作品。
 いきなりの余談だけど、私の祖母は「JR」でも「国鉄」でもなく、死ぬまで「省線」って言ってたな。
 
 さて、ここを舞台とする映画としては、かの傑作「フラガール」があるわけです。山ちゃんと蒼井優ちゃんが結婚するきっかけになった作品ですね。
 本作「フラ・フラダンス」の製作陣にはたいへんな勇気が必要だったと思います。なぜなら、観客はどうしたって「フラガール」と比較しちゃうじゃないですか。あれは21世紀に作られた邦画のうちのベスト級作品のひとつなので、まあどうやったって勝ち目はない。
 でも勝負に挑んだ。本作は偉いです。
 
 もちろん、「フラガール」を超える出来だとは思わなかったけど、あれを「ビギニング」だとするなら、本作は「現在もの」としてよかったと思います。
 予備知識なく観に行ったので、「脚本 吉田玲子」と出た瞬間に、「おっ!」って小さく声出ちゃいました。
 3.11からちょうど10年という節目を、もっとも効果的に活かしたセッティングとなってましたね。
 
 一応書いておくと、3.11ではスパリゾートハワイアンズ内での死者は出ていません。
 つまり、本作最大のセッティングは、まあフィクションではあるんですが、それでもこれはいい設定ですね。
 ちゃんと次の世代に「つなぐ」モチーフになってる。
 
 何よりも、本作は私の大好物の「バックステージもの」でした。
 ミュージカル映画の王道パターンのひとつですね。「唐突に歌い踊る」というミュージカルの「最大の武器」でもあり、しかし同時に「最大の弱点」でもある仕掛けを可能な限りナチュラルな舞台設定にする工夫が「バックステージもの」。
 登場人物たちは、職業として歌い踊るんだから仕方がないでしょ? っていうエクスキューズ。
 黎明期のワーナー・ミュージカルでも、黄金期のMGMミュージカルでも、このパターンはかなり多い。
 代表作は、ワーナーでは「四十二番街」かな。MGMなら何だろ? 「Ziegfeld Girl」あたりかな。邦題は「美人劇場」。原題は「ブロードウェイ・レビューの『ジーグフェルド・フォリーズ』に出てる女の子」って意味なので、そりゃダンサーやシンガーたちは美人だろうし、ものすご~い意訳として「美人劇場」は、間違ってはないともいえるんだけれど、現代の感覚からすると、「何だ、そのタイトル?」ってなりますよね。
 
 ともかく、本作もその「バックステージもの」。
 このジャンルは同時に「チームもの」にもなりやすいジャンル。もちろん本作もそうでした。
 「チームもの」は、ハリウッド映画では、プロ集団で金庫破りするような「ケイパーもの」になることが多いのですが、わが国でもっとも多いのは「部活ムービー」ですね。
 本作もあまたの「部活ムービー」とかなり近い位相に位置するのですが、登場人物たちは社会人。「部活ムービー」との違いは、プロとして生活が懸かっている点。
 
 ただし、本作ではそこがまったくゼロってわけじゃないけど、弱かったですね。
 宝塚やなんかと違って、入社と同時に、フラダンスの学校へ入学が行われるという、現実の常磐興産株式会社のシステムに即しているので、結構「部活ムービー」に近いことにもなってた。
 そこは、やっぱりどうしても比較しちゃうんだけれど、「フラガール」が凄かったね。背負ってるburdenの重さが全然違うもの。
 
 なんてこと書いちゃったけど、やはりミュージカル好きとしては、本作もずっとウルウル涙目で鑑賞してはいましたよ。
 
 「フラガール」との共通点でいうと、松雪さんがやってたフラダンスの先生のモデルは、実際にフラガールたちをトレーニングしたカレイナニ早川さん。
 本作では一文字変えた「カレイナニ早坂」さんという名前で登場してました。
 あと、あっちでは(山ちゃんと優ちゃんのキューピッドとなった)静ちゃんの役に近い、古い喩えでいう「キレンジャー」ポジション、こっちにもいましたね。
 私、富田望生ちゃんの大ファンを標榜してる割には、エンドロールまでそれが彼女の声だと気付かなかったことが不覚でしたが。
 
 声でいうと主役の日羽ちゃん役は、まいんちゃんでしたね。ちょっと前の「羊とオオカミの恋と殺人」も最高でした。
 妹の「日羽」と姉の「真理」のアナグラムで「ひまわり」。ここもエモかった。
 なんつーか、ひまわりっていろんな意味でエモいですよね。
 子供の頃は、ひまわりって屈託のないイメージしかなかったんだけど、屈託がなさ過ぎて一周回って怖いというか。
 それは、もちろんヴィットリオ・デ・シーカの例の傑作を観る前と後でも確実に印象が変わるからだろうし、仲井戸麗市のソロ曲「向日葵10.9」がリリースされた1993年以前と以後でもやっぱり印象がさらに変わったんだけど、ともかくひまわりって超絶エモいんですよ。
 
 あとね。ジョン・ウィンダムの「トリフィドの日」。映画化作品としては「人類SOS!」。
 ひまわりって、背丈が高いし、ちょっと人間っぽいフォルムなので、どうしてもあの食人植物を思い出しちゃうんです。
 そんなわけで、ひまわりってエモいしコワい。
 なんつーか、「死者」と「向日葵」って似合い過ぎるんだよな~。
 (現実の死者への供花は向日葵じゃなく、菊なんだけどさ)
 
 さてさて。
 本作のタイトル「フラ・フラダンス」には"Hula Fulla Dance"って英語題もついてましたね。
 "Hula"はハワイ語で「踊り」。だから、「フラダンス」って「ダンスダンス」ですね。「チゲ鍋」と同じ。
 じゃ、"Fulla"は何かというと、同じポリネシアに属するマオリ語で「Fella=Fellow=仲間」。
 劇中では、フラフラになった日羽ちゃんが「これじゃフラダンスじゃなくって、フラフラダンスだよ~」って嘆いてましたが、「フラ・フラダンス」って、「仲間と一緒に踊る」ってことなんですね。
 くぅ~! なんて素晴らしいタイトルなんだ!

 何よりも素晴らしいのは本作を観ると常磐ハワイアンセンター(違う!)に行ってみたくなる点。
 優れた映画ってそうでしょ?
 優れたグルメ映画観るとお腹が空くし、優れた音楽映画観ると自分でも歌いたくなるし、優れたポルノ観ると自分でも(以下rya)。