たく

あの夜、マイアミでのたくのレビュー・感想・評価

あの夜、マイアミで(2020年製作の映画)
3.8
カシアス・クレイがイスラム教に改宗してモハメド・アリと名乗る直前のマイアミでの一夜を実話を基に描いてて、マルコムX、ジム・ブラウン、サム・クックという錚々たるメンバーを混じえた会話劇が濃密だった。

仲良し4人組なんだけど、マルコムXとサム・クックが黒人としての立ち位置の違いに関して凄絶な議論を交わしていくあたりがハラハラする。影響力がある存在だからこそ黒人の権利を自作で明確に主張すべきというマルコムと、ビジネス上での黒人の自立を主張するサム。両者は決して矛盾することではないのではと思ったけど、現在のBLM運動まで続く長きにわたる黒人差別問題を見ていると、マルコムXの過激な主張も分かるような気がする。
二人が決裂した後でジム・ブラウンがマルコムXをなだめるように話しかけるのが良くて、4人が再集合したあとにマルコムXがサム・クックのボストン公演での奇跡をしみじみ語る場面にクライマックスの高揚感を感じた。この相反する激論から和解に至る一連の展開が弁証法みたいだったね。

マルコムXと激論を交わしたサム・クックもボブ・ディランの「風に吹かれて」に密かに感銘を受けてて、自分なりの表現につなげるラストがジーンと来る。映画では説明されないけど、彼は本作の舞台となった1964年の年末に銃で撃たれて亡くなってるんだね。彼を演じたレスリー・オドム・Jrの歌がめちゃくちゃ上手くて、本作の実質的な主役は彼だと思った。
たく

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