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彼女来来のnt708のネタバレレビュー・内容・結末

彼女来来(2021年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

同一人物が別人に入れ替わっている物語は、『ジキルとハイド」のような個人に複数の人格が備わっているパターンとある視点から見たときに全くの別人が同一人物のように見えるパターンに分けられると思うのだが、本作は後者の典型だった。てっきり前者だと思い込んで観始めた私は、全くの別人が元の彼女と入れ替わっていたとき、驚いてしまったのが正直なところだが、、

本作が描こうとしたのは、考え方ひとつで人は誰でも代えが効くということだろうか。元カノにフラれて新しい彼女と同棲するようになっても、元カノとの思い出は消えず、元カノと照らし合わせてしまう自分がいる。そんな人間の(このような気持ちを男性だけが持つとは限らないから、あえて「人間の」としておきたい)情けなさを強く感じる作品だった。

解釈によっては、入れ替わった彼女が元カノを殺したり、元カノが自殺をしたなんていう筋も考えられなくはないだろう。川を流れるバッグが元カノのものだとしたら、そんな解釈をする可能性も否定しきれない。

そんな不気味で不穏な雰囲気を持つ作品だったが、黒沢清を強く意識した演出にはどうも馴染めなかった。彼の特徴でもある光と影の使い方が慎ましい映画を好む私にはどうも受け付けがたいのである。しかし、この演出が本作の雰囲気を作っているのもまた事実。本作が嫌いになれない以上、こうした演出も寛容に受け入れるべきなのだろう。個人的にはもう少し物語の解釈をしやすいヒントを与えてくれても良かったように思う。
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