ふとしたトリガーで蘇る自分史上最高にエモかったあの日々。好きな音楽を聞いて好きな人に胸をときめかせ、普通はつまんない、先のことなんて考えてもみんないつか死ぬんだから、と刹那的に走ってるときのちっぽけな煌めき。でも、気づいたらそんなときめきに一つずつ別れを告げ、折り合いをつけ、普通に生きてる大人になってた。侘しい一人の夜、街角で昔の友達に偶然再会して閉じこめていた心の扉が開く。そんな普通の男、佐藤の話。
それでもそれは忘れられない疵になって心の奥底にあり、音楽や風景や人がきっかけでその頃の思いは突然渦巻いて押し寄せてくる。渋谷、ラフォーレ、オザケン、ドライブ、ノストラダムス。時代だなぁ。特に大きな疼きはもちろんあの日々の中で自分よりも好きになってしまった人のことで。その人の言葉が生涯お守りみたいになってしまってることもつきつけられたりして胸がズキンとなる。
まっとうな家庭を持てなかったのはやはりあの恋が上書きできないから。ちょっと感傷的でわりと気持ち悪い類いの重さの思い出。思いを残したままの別れだったからこそ一生心に残っていたりして。でも探すでもなく、抗うでもなく、日々に押し流されて生きてるあたりがすごく普通。
普通の中に思いを閉じこめて誰もが生きてると思う。私も佐藤だなぁ、となんとなく自分を重ねた。振り返れば自分の人生はちっぽけで、なぜ今こんなふうに生きているんだろう、と思う。でも、自分を通りすぎていったものたちとのふれあいがあるから間違いなく今の自分がある。大きなうねりばかりが物語じゃない。それぞれがみんな心に佐藤みたいな思いを抱いて生きてると思う、大なり小なり。変わったようで変われていないような、そんな普通の日々、だよね。
文通して出会えた趣味が合いそうな子に「ブエノスアイレスに日本の電車が走ってるみたいなこと」なんて言われたら拗らせるんだろうな。キャラ犬の伊藤沙莉ちゃん、よく笑う感じや達観してこだわりもクセも強い不思議キャラの感じ(むげん堂やチャイハネな感じ)、とってもよかった。佐藤の森山未來はこういうのうまい。どうして人は好きな人が寝てるとどアップで写真撮るんだろう、起きたらかっこいい言葉は直接向けられないくせにレンズ覗く目の愛の深さよー、なんて思いながら見ちゃったな、ドライブのシーン。あと「君は大丈夫」「小説を書きなよ」の言葉が心に残ったな…
大人になった私だからとても刺さった話。でも、大人なのにやっぱり大人になれていないことを突きつけられて心がなんとなく疼いている、そんな感じ。私はとても好きな作品。とりあえずオザケン聞こう。(またそれ。SUNNYもそうだったよね…)
追記:篠君(佐藤の友達、バーのママ)が頑張ってて嬉しい。彼が映画の賞をとったとき、授賞式に居合わせ作品も観た。それだけに、頑張ってね、とどこか親近感を持って応援してたりする…