keith中村

浅草キッドのkeith中村のレビュー・感想・評価

浅草キッド(2021年製作の映画)
5.0
 原作の「浅草キッド」は読んだことがなくって、これまでのドラマや映画も観てないので、この物語に触れるのはこれがはじめて。
 Netflix、年の瀬に及んでまたしてもやってくれたな。そして、監督2作目となる劇団ひとりさん、見事な演出でした。
 
 個人的に本作について大好物なのは、これがタップダンス映画でもあるというところ。
 特に第2幕での柳楽優弥の躍動感のある「タップ・モンタージュ」は、ジーン・ケリーの名を持ち出して称揚することすら、私は辞さない。
 その意味でラストショットも見事。贅沢を言えば、あんなに短く終わらずに、大泉洋と柳楽優弥のタップをもっとずっと見ていたかったなあ。
 
 劇団ひとりさんはほんとに映画が好きなんだろうなあ。そんでもって、映画が何を描くべきものか、よく理解してるんだと思う。
 だから、本作は「単に北野武の自伝の映画化」に留まらず、映画的飛躍・映画的昂奮が数多く描けている。
 とりわけ見事なのは、やっぱりラストの長回し。あれ、「長回し」なのかな、「長回し風」なのかな。麦ちゃんとか大泉さんが衣装を変えて何度も登場する。頑張って早変わり・移動した長回しか、それともCGでつないだ長回し風なのか。
 
 役者陣も豪華だったし、演技も素晴らしかった。
 大泉さんは、もう盤石。もちろん私は実際の深見千三郎を知らないんだけれど、「江戸っ子は皐月の鯉の吹き流し、口先ばかりはらわたはなし」を体現する人物を見事に演じてた。「江戸っ子」って、まあ、深見さんも大泉さんも道産子なんだけどね。
 だから、深見とたけしの丁々発止がおかしいんだけれど、同時に素晴らしすぎて感動して泣いちゃう。
 本作で、ツービートの漫才を見て、麦ちゃんが泣きながら笑ってるシーンがあるけれど、観てるこっちもずっとそんな感じ。
 
 柳楽優弥は、個人的には彼のベストアクト。
 おれ、柳楽優弥の凶暴性って、結構苦手で。その極がたとえば「ディストラクション・ベイビーズ」あたりだけれど(いや、作品としては傑作なんですよ、あれも)。
 でも、本作の柳楽くんは、裡に秘めた凶暴性と、それが時折噴出する匙加減が非常によかった。
 あと、顔のチックとか、仕草とか、話し方(特に小声のとき)が、北野さん本人にそっくり。
 
 麦ちゃんも相変わらずいいですね。
 「脱げる若手」「濡れ場のできる若手」という、「作り手にとって便利な若手女優」として起用されることも多い役者さんだけれど、本作は「ストリップ小屋の踊り子」役なのに、脱がないし、「それ以外で勝負をかける」人として描かれているという演出もとても好感を持ちました。
 
 保奈美さんも素敵な「おかみさん」でした。
 そりゃ、俺だって、こんな素敵な人が奥さんだったら、死に別れてから酒量増えちゃうわ。
 って、俺は今でも酒量多いんだけどね。
 おっと! うちの祖父は深見さんとまったく同じ死に方してるんで、俺、気をつけなきゃ!
 
 レニー・ブルースの名前が柳楽くん演じるたけしの口から語られましたね。
 そっかぁ。やっぱたけしさんはレニー・ブルース知ってて目指してたんだ、って納得しました。
 私は若い頃にボブ・フォッシー監督作の伝記映画でレニー・ブルースを知りました。
 それから、初めてテレビに出演する際に、局から禁じられたネタを結局やっちゃうところは、オリバー・ストーンの「ドアーズ」にも描かれていた、エド・サリヴァン・ショーでのジム・モリソンの"Girl, we couldn't get much HIGHER"も彷彿しました。
(本作で描かれる漫才のネタって、小学校の頃に聞いたものばかりで、すごく懐かしかったんですよ。ってことは、ツービートは、わずか1,2年の間にテレビの禁忌を破って、それが当たり前に電波に乗る時代を拓いたってことでしょ? そこも改めてすごいことです)
 
 フランス座は、私が知ってる頃にはすでに「東洋館」になってました。
 あの街角、実際に浅草でロケしたのかな? 「東洋館」の看板を「フランス座」に変えればいいってだけじゃなく、カメラに映る範囲のすべての建物を変えなきゃならないわけだし。あと、今の東洋館の入り口は改築されてますからね。
 オープンセット組んだのか、CGで加工したのか。
 
 その関連でいうと、隣の浅草演芸ホールのディテールまで凝ってて感心しました!
 「過去の寄席が映る映画」っていくつかあるんだけれど、顔付けとか幟とか、「どうせ観客にはわかんないでしょ」って、現代の小屋をそのまま撮影してる映画ばっかりなんですよ。「三遊亭白鳥」って幟が出てたりとかね。
 いや、白鳥師匠は大好きなんだけれど、「その時代は白鳥さんいないでしょ?」ってなっちゃう。
 同じことは、道路を走る自動車にも言えて、近景で映る車は頑張って昔のものを揃えても、向こうの大通りにばんばんプリウスが走ってるような映画も多いもの。
 
 でも、本作ではラストに映る軒続きの浅草演芸ホールの幟が、「志ん朝」「小さん(もちろん五代目)」「小三治(RIP!)」「金馬(四代目でしょうね)」ってなってる。
 そう。ここ、ちゃんと当時の寄席を再現してるんです。
 あと、顔付けの木札に圓生の名前まであるんです!(じゃあ、ほんとなら「昭和の名人」圓生の幟が上がってないのは嘘だけどね!)
 どんだけ豪華なんだ!
 まあ、当時としてもあり得ない贅沢すぎる顔付けなんで、逆にそこも嘘かな。
 それと、圓生一門は1978年に協会を脱退してるんで、ここも微妙にダウトかな。もしくは、78年以前の回想ってことならアリかな?
 
 麦ちゃんの息子が「まんが日本昔ばなし」の「にんげんっていいな」を歌ってましたね。
 あのシーンは1981年か、82年のはずなんで、ここもダウト。
 この曲は1983年から使われたものなのです。
 
 ごめんなさいね。古い人間なんで、どうでもいい点をちょっとばかり指摘しちゃいましたが、決して本作を貶めるつもりはなくって、IMDBの"Goofs"みたいなもんだと思ってください。
 
 総じて言いますとですね。
 やっぱ本作のMVPは劇団ひとり監督でしょうね。
 なんとなれば、本作は「世界の映画監督キタノ」のプリクエルなわけでしょ? なのに、全然萎縮してなくって、伸び伸び見事な「映画(シャシン=キネマ)」を作り上げたひとりさん。
 監督作わずか2本(プラス原作・脚本もありますね)で、「過去と現在のリンク」っていう作家性すらもはやその片鱗が見え隠れしてるんで、ひとりさんの監督作、これからもすっごく期待してます!!